しあわせのねだん(角田光代/晶文社)

しあわせのねだん
ほんっと、最近この人の本出過ぎ…。ま、小説は間違いなく買ってるんだけど、エッセイもけっこう立て続けに三冊も出てるからなぁ。とはいえこの人のエッセイをハードカバーで買うのは初めてなんだけれども。このほかに古本に関するのと旅行記みたいなエッセイが連続して出てたよね。ま、直木賞受賞後だからかもしれないけど、あまりにたくさん出過ぎてちょっとビックリしてしまう。まぁ、ファンとしては寡作よりは良いけど、あまり多すぎるとありがたみが減るっていうか…ワガママな意見ですが。
本書は「お金」をテーマにしたエッセイ集。さらさらと読める一方でいろいろ考えさせられるところもあり、期待以上に面白かった。こないだ読んだ「今、何してる?」というエッセイも面白かったし、けっこうこの人のエッセイ好きかも。
小説が面白ければその人の書くエッセイも面白いかというと、全然そんなことなくて、まったく別物だと思う。たとえば笑わせるテクをもったエッセイストという別の一面を見せる姫野カオルコ三浦しをん、小説と解け合うような「作品」のレベルにまで高めてしまえる佐藤正午、ストーリーテイラーはそつなくエッセイまで上手いと感じさせる恩田陸
じゃあ角田光代はどうかというと…「普通」だ。「普通」なのに何故か面白い。これってこの人の小説にも通じるな。これまでいっぱい読んできても、この人の面白さを上手く言葉にできないし。この人の話ってどう転んでいくか全然わからない。でも前提として話自体を「見くびらせてる」と思う。で、読んでるこっちが油断してるすきに懐に突いてくるかんじ。やっぱ、「普通」なのに面白い。
この本の中ではラスト二編がすごく好き。「記憶 9800円×2」は毎年恒例にしてる母親の誕生日旅行のなかで一番<最悪>だった旅行を取り上げたもの。ちょっとほろりとさせられる一方で、すごく気になることがある。日光江戸村である占い師に見てもらった著者は「三年後、仕事の関係で何か大きな賞をもらう」と予言されてるのである!このエッセイは書き下ろしでしかも三年前の旅行と記してあるので、この占いめちゃめちゃ当たってるんじゃないの!?さらっと書いてあるだけなので詳細はわからないけど、ものすごく当たる占い師さんなのかも…。ラストの「一日(1995年の、たとえば11月9日 5964円)」では気になる文章があった。

そうして三十代も後半に近づいた今、思うのは、二十代のときつかったお金がその人の一部を作るのではないか、ということである。/十代のころのお金というのは、多くの場合自分のものではない。親が与えてくれたなかでやりくりしてる。二十代のお金は、例外もあるがほとんどは自分で作った、自分のお金である。なくなろうが、あまろうが、他の責任ではなく、ぜんぶ自分自身のこと。それをどう使ったかということは、その後のその人の、基礎みたいになる。もちろん基礎のすべてではない、一部ではあるが。

まだ二十代まっただ中だが、この言葉の意味はわかる気がする。もちろん今の自分が将来にどういう影響を与えるかなんて知るよしもないけど、お金の使い方という部分だからこそ説得力がある気がする。誰でも最優先するものにお金を払うからね…。
それにしてもこの人は平日の午前8時〜午後5時まで仕事をしているというのを何かで読み、変な人だなと思ってたけど、このエッセイではそのきっかけが語られていて、すごく納得してしまった。でもやっぱすごいと思う。わたしも同じく自分で時間を管理する仕事で酒好きな身だからこそ実感してしまうが、そんな早起きは無理だ…。