家守綺譚(梨木香歩/新潮社)

家守綺譚
帯を見てもどんな作品か全然分からないのでなかなか手を出さなかった作品。ま、梨木香歩の作品なんでハズレはないことはわかってたんだけども。
売れない小説家・綿貫征四郎が主人公。ときは明治、綿貫は空き家になった友人の実家に住むことになる。古い二階建てのその家や庭には不思議なモノたちがたくさん通り過ぎていって…。
古き日本の情景や土着的なものがたっぷりと詰まった一冊。おもしろかったです。なんでも知っている隣のおかみさんやとぼけた和尚など脇役もなかなかいい味を出しているのだが、なんといっても勝手に住み着いた犬のゴローがいい。やたら狐に化かされたりかわうそになつかれたりする綿貫を守ってくれる、賢い犬なのである。

駅舎を出ようとしたら、雪が降っていた。それも世界を白く塗りつぶさんがばかりの降りようで、その中を焦げ茶の生きものが左から右へ通りかかった。よく見るとゴローである。忠犬よろしく私を迎えにきたのではあるまい、偶々散歩の途中に通りかかったのであろう、ゴロー、と呼ぶと、振り返りざま、おおっ、という顔をしてお愛想に尻尾を振って見せた。それから、急ぎの用事がありますんで、とでもいうように、こちらを振り返りつつ、すまなそうに去っていった。ゴローに振られたのは初めてだった。ふん、と興がったのも最初のうちだけで、実は少し、気を落としていた。

ちなみに主人公の綿貫くんはわたしの大好きな作品『村田エフェンディ滞土録』の村田くんの友人。基本的に人が良くて押しが弱そうなあたり似てますね。
村田エフェンディ滞土録