君たちに明日はない(垣根涼介/新潮社)

君たちに明日はない
この人の作品を読むのははじめて。『ワイルド・ソウル』や『クレージーへヴン』など話題になってる著作があるのは知ってたんだけど、何となく手を出さずじまいだった。だからよくわからないけど、この作品は他の著作とは少し毛色が違うのではないかなーという気がして手に取ってみた。
リストラ請負会社に勤める村上真介が主人公。簡単に言えば会社側が準備したリストラ対象者と面談を重ね、自主退職を受け入れさせる仕事だ。いつもと同じように大手の建材メーカーの依頼で面談を行なっていたところ、真介は芹沢陽子という女性と出会う。41歳で課長代理でもある彼女の仕事ぶりは認められているのだがリストラ対象者となっているのだ。「今のプロジェクトが終わるまでは絶対に辞めませんから」と啖呵を切る彼女に対して、気の強い年上の女が大好きな真介は内心嬉しくてしょうがないのだがー。
連作短編集とでも長編とでも読める作品。真介の前に座らされる人間たちは、厳しい選択肢を突きつけられる。自主退職を受け入れるか、それとも会社に居座り続けて冷や飯を食わされるか。リストラ対象となる人間たちからの物語も描かれるので悲しさや悔しさがリアルに浮かび上がってくる。だけどこの物語の読後感は、すごくいい。リストラ対象者たちが苦しみながらも「明日」を信じて決断を下しているからだろう。一見軽めででも真摯な真介の人柄と、ちょっと距離を置きながらも微笑ましい真介と陽子の恋愛が清涼剤にもなっている。個人的には「ACT3.旧友」と「ACT5.去り行く者」が好きだった。現実はもっと厳しいだろうけど、やっぱ小説は前向きなのがいいね。満足の一冊です。他の作品も読んでみよう。