月と雷

月と雷

月と雷

野良猫のようにふらふらと誰かの善意に頼って生きる直子とその息子・智、そして子どもの頃の一時期この親子と否応無しに同居していた泰子。二十数年ぶりに訪ねてきた智と再会した泰子は再び自分の人生が歪められることに怯える……。
はみ出した人=直子の異常な生き方を読むことで、ふつうって何だろうと改めて考える。「ふつう」はちょっと詰まらないけど楽、だけどしがらみがあるイメージ。だけどそのマイナス面に振り分けたくなるしがらみこそが、人が人として生きていくために必要な「帰る場所」をつくってくれている。直子にはそれがなかった。
そんな直子に翻弄され、突然誰かが現れたり突然置き去りにされる経験をした泰子は、誰かを無邪気に信頼することはこれからもないだろうと思う。それでも誰かに責任を押し付けることを止め、ただ生きようと覚悟を決めた泰子は強い。その覚悟をなぜか直子の言葉が後押しする。「はじまったらあとはどんなふうにしてもそこを切り抜けなきゃなんないってこと、そしてね、あんた、どんなふうにしたって切り抜けられるものなんだよ」。
ただ生きているということはそれだけで日々を切り抜けていることと同義だと、深く頷けるのは今の日本の社会を背景にしてこそかもしれない。角田さんはホント、同時代に読む意味のある作家だと思う。面白かったです。