まほかるのつくりかた。

書評家という職業は、面白い小説、読んでほしい小説を進めるのが仕事である。
ところが二〇一一年三月に東日本大震災が起きてから、私はしばらく迷いの中にあった。あれだけの悲劇を目の当たりにしてしまうと、どんな小説を薦めればいいのかわからなくなったのだ。現実がこんなに辛いんだから、せめて物語だけでも幸せな世界に浸りたいのではないか。そう思い、人が死ぬ話や嫌な話は極力避け、元気の出る話、心が癒される話、生きてるってすばらしい――そんなものばかり紹介していた時期があった。
それから三ヶ月も経たないうちに、私は驚くことになる。
今はちょっと保留だなと思っていた「嫌な話」が、爆発的に売れ始めたからだ。
たとえば、湊かなえ沼田まほかる桐野夏生。そして真梨幸子

(大矢博子による『ふたり狂い』(真梨幸子)の解説より)



正直、震災はあまり関係ないんじゃないかと思っている。「嫌な話」系列で言えばその二年くらい前から秋野照葉の文庫がじわじわと注目集めていたし。女流という言葉はあまりに古くさいけど、女性作家によるサスペンス小説にはブームがあって、今は何度目かは知らないけど何度目かのブームが来ているんだと思う。


しかしそれよりも書店の平台デザイン、そのバックにある出版社を通じた全国的なキャンペーンは、もんのすごい効果があったんだと思う。ガリレオ効果で東野圭吾作品、過去の文庫本が売れまくったのも時期的に近い。単価の低い文庫本であれば購入の敷居は低い、そこに「すでにこんなに売れてるんですよ」的な見せ方で思いきって数を置く。目立つ場所に、場所をとって積んで表紙を見せる。どこの本屋に行っても同じ。単純な話だけど何度も何度も目に入ることで気になって買ってしまう人も多いと思う。


先にブームをつくる。他業界ではよくある手法が書店の現場にやってきた。沼田まほかる真梨幸子樋口有介。今のところ、実力はあるのにあまり注目されていない作家のサルベージ的な意味も持つこの売り方は、いつまで功を奏すんだろうか。それとも終わりなんてないんだろうか。気になります。注目です。