薬丸岳

闇の底

闇の底

虚夢

虚夢

悪党

悪党

ブログ休止しているうちに読んだ作品を、作者別に簡単に記しておこうかなと。
江戸川乱歩賞受賞作でありデビュー作の『天使のナイフ』は少年事件を絡めたサスペンスで申し分なく面白かったのだが、「いかにも乱歩賞っぽい、個性はあまり感じない作品だなぁ」と思ったものだが、それは大きな間違いで、少年事件にスポットを当てていただけで、すでに薬丸岳という作家の個性は一作目にしてきっちり表現されていたことを、後の作品を追って知ることになる。
現在刊行されている後の三作では、同じく少年犯罪や「心身喪失」により被疑者が罪に問われなかった事件、そして幼女への性犯罪、が作品の根底、もしくはきっかけにある。この手の犯罪はマスコミの飛びつきもいいのでよく耳にするし、その罪に対しての代償の軽さには憤りを覚える人も多いだろう。被害者家族の立場に自分が立つと想像すれば尚のこと。もちろん誰に殺されたにしても途方もない哀しみと喪失感に呆然とするにしても、よりにもよって犯人の年齢や精神状態にまた振り回されるなんて、想像するだけで鳥肌が立つ。
ワイドショー的な興味を惹くために選ぶ題材としては良い。共感は得やすいだろう。だが薬丸岳はそこではとどまらない。そんな事件の被害者家族たちを上手く配置し、新たな事件に絡ませていく。なんとか現実と折り合いを付けようとする登場人物たちの心情描写が胸に痛い。スリリングな展開にページをめくる手は止まらないのに、罪とは、罰とは、と考えてしまうのだ。
あざとさをぎりぎりで忌避するテクニックはすでに証明されたようなもの。もっともっと深い作品を書いてくれるのではないかと、期待大の作家である。