夜の終焉 上 夜の終焉 下(堂場俊一)

夜の終焉 上

夜の終焉 上

夜の終焉 下

夜の終焉 下

けっこうこの著者さんも、作品によって評価がわかれるんですが、今回のはなかなか読み応えがありました。


設定がなかなかドラマチック。
父親が殺害され被害者家族であるにも関わらず、生前の父親の吝嗇ぶりから同情も得られず、地元を捨てて深夜喫茶のマスターそしている男が主人公の一人。
そしてもう一人の主人公は、父親が殺人という罪を犯したにもかかわらず、そしてそれを隠し立てもせずに弁護士という職業を選んだ男。
ともに故郷を離れた二人が、それぞれの事情を抱えて故郷に戻り、知らず徐々に近づいていく。


被害者の息子と加害者の息子。
字面から来るイメージとは真逆に、被害者の息子は世間から隠れるようにひっそりと生活し、加害者の息子は法で守られる権利を訴える仕事をしている皮肉さ。
二人の心情を通して、一度起きてしまった事件は決して終わらないのだと、ひしひしと描かれる。


ひとつのエピソードが心に残った。
加害者の息子であり弁護士である川上が、被害者の息子である真野の同級生に話を聞きに行ったくだり。
あの事件の加害者の息子です、と最初に断った川上が、あなたは自分の立場を利用してるんじゃないのかと、最後に責められるのである。
川上としてはのちに誤解されては困るしのいつもの配慮だったのだが、その地元では被害者と加害者が普通とは真逆な態度を取られていたし、そもそも聞いた相手は真野の友人なのでそれは過剰反応と言えなくもない。
だけど、言葉にするに難しい、人間関係の「空気」を的確に描いたエピソードだと思う。
言ってみれば、自分は加害者側なのだから自分にとってマイナスな情報を相手に与えている、と思ってる時点で相手に微妙な圧力をかけていることを自覚してない。


思い出したのはよしながふみの『フラワー・オブ・ライフ』。
この作品の天然に明るい主人公は、転校初日の挨拶で、自分が白血病だったこと、それで一年留年したことをからっと話すのである。
その後、友達関係で悩む主人公にあまり大人げない担任があっさりと諭す。
病気のことを言った時点で、アンタは他の人たちより優位に立ったんだよ、と。

うーん………やっぱ言葉にし辛いので気になった人は読んでください。絶賛発売中です。


そして話は戻るけど、重い題材であるにも関わらず、この作品は優しさに満ちてる。
人が人を救うのだと、長い枚数でじっくりと語られてるような作品。
ラストのサプライズも含め、重めの作品であるのに読後感が良かった。
オススメです。