森に眠る魚(角田光代)

森に眠る魚

森に眠る魚

最近の角田光代は本当に面白い!と熱弁を振るいたい。脂が乗っているとの表現は親父過ぎか。けどこの人はかなり刊行ペースが速いんで、一時期読んでもういいやと離れてしまった読者も多いと思うの。そういう人たち、戻って来いと言いたい。もしくは一度も読んだこと無い人もすぐに集まれと言いたい。ついでに直木賞受賞作として『対岸の彼女』一作しか読んでない人たちにも、新たな気持ちで読めとこの本を差し出したい。そのくらい、角田光代の進化が凄いのだから。
ものすごく乱暴にまとめてしまえば育児に悩むママさんたちの物語、と言っても間違いではないこの物語。それがとても上質なサスペンスになってしまっているのだから舌を巻く。たぶん小説の下敷きの一枚ではあっただろう、現実に起こった事件もぼんやりと浮かぶ。母親の孤独をここまで正面からえぐるように描いた作品はなかなか無いのではないかと思う。
本当に時代に即した作家だなと思う。流行を感じとっているとかそういうことではなくて。その時代時代にある影を丁寧にすくいあげる。十数年前にバックパッカー達を主役とした物語で世に出た作家は今、その筆力に凄みを増していびつな大人の世界を描いている。背筋を凍らせながら、それでもあぁこの作家と同時代に生きて読めて幸せだな、と思うのだ。