アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない (Bunshun Paperbacks)町山智浩

アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない (Bunshun Paperbacks)

アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない (Bunshun Paperbacks)

前々からこの人のコラムのファンだったので、ちょっと発売を楽しみにしていた一作。アメリカ在住の映画評論家である筆者から見たアメリカの現実を切り取ったコラム集。これがホント、面白いんだよね。
アメリカという国の良い面と悪い面がクリアに見える。
良い面は皮肉にも、アメリカの悪い一面を皮肉たっぷりに揶揄する表現者が一定数いることとと、その表現の思いきりの良さだろうか。あまりの内容にテレビ放送は出来なくても劇場で公開は出来る、というのは日本ではあまりないだろう。カネの問題ではないと踏み切っただろう関係者たちはかなりの少数だろうが、アメリカの良心だと言えなくもない。
悪い面はもう、読んでくださいというしかない。これが「自由」を掲げる国かと口が開く。前々からアメリカは馬鹿だと思ってはいた。しかし翻って自国はどうかと問われればこれもまた馬鹿なのでアメリカをどうこう言う筋合いでもない。ただ怖いなと思った。メディアと大企業を買収すれば国の政治なんて一部の人間に都合がいいように勝手に転ぶ。日本を含めいろんな国が経験したことを今、アメリカが味わっている。
面白いのは多分日本ではなかなか見ることが出来ないだろう、ドキュメンタリー映画やテレビ番組を切り口にしてある点だ。ドキュメンタリー映画は紹介されているのを読むだけでもかなり刺激的で出来れば見てみたいと思うのだが(とくに北朝鮮ばりのキリスト教のキャンプとか!)、実際アメリカに住むマジョリティーだってほとんど見ていないだろう。だけどそれよりは目にする可能性が高いだろうテレビ番組だってあなどれたものではない。スポンサーの意を汲む真面目な番組を揶揄するコメディ番組なんて、日本では絶対に無理だろう。褒め殺しをマジで受け取ってそのキャストをパーティーに呼んでブッシュとメディアに赤っ恥かかせた一件なんて痛快!
それにタイミングも良かった。次期大統領は決定したが、日本でも対岸の火事程度に報道された大統領選がどういうものであったのか、海外では報道されないだろう面を知ることが出来て興味深い。とくに日本では地味な扱いを受けていた(別に日本で地味な扱いを受けていてもいいのだけど)マケイン氏の過去や言動を知って驚いた。同じ共和党ブッシュ政権が地に落ちた今、しかも党の支持基盤からは嫌われ、それでもオバマと際どいところまで競ったのも納得できる。
しかしここへ来てこの本を読んでマケインやオバマやヒラリーについて知ってさらにネットで検索したりして結果、自国の首相についてより詳しくなってしまった自分は、ニューヨークがどこだか知らないアメリカ人を笑えない。国政への無関心は国にとっての負債なんだろうし政治家にとっては都合が良いんだろう。だけど危機的な状況にならないと政治家も国民も本気では向かい合わないんでしょうね。まぁ、アメリカも日本もそこそこ向き合う時期に来てるとは思うけど。
ちなみにまさか一万二万くらいで国民を買収できると本気では思ってないですよね? その騒動に隠れて面倒な法案をひっそり通すとかそういう画策があるんですよね? それもどうかとは思うけどそうあって欲しいせめて。