イノセント・ゲリラの祝祭(海道尊)

イノセント・ゲリラの祝祭

イノセント・ゲリラの祝祭

バチスタシリーズ最新刊。帯では『田口・白鳥シリーズ』となってるけど、個人的にはやっぱ「バチスタシリーズ」ってほうがしっくりくるなぁ。まぁ一作目以降はバチスタ関係ないからそれも変なのは承知してますが。
で、本作。デビュー作『チーム・バチスタの栄光』に立ち戻ったかのような、スリリングなロジカルバトル。田口と白鳥がそれなりに主役として活躍してるだけでそう思うのかもしれないけど。舞台が病院でなく厚生労働省だからか、『バチスタ』のほうが医療事故の現場もスリリングに描いてあって小説としてのバランスは良かったようにも思うけど、今作もなかなか読ませる。
所詮は理想と切り捨てるのが現実だと知っていても、いや知っているからこそ理想で現実をねじ伏せようとするキャラクターたちがみな、格好良い。
現実に日本の医療が破綻しているということを門外漢の私でさえ知っているのだから、医者であるこの人の小説はその現実と即してスリリングだ。
これがフィクションであることが残念だなんて、そう思わせる小説に出会えるのも希有でしょう。それでいて「現場を知る人間だから書ける」のを逸脱して小説として読みがいがあるのだからたまらない。
小説として文句がないわけじゃない。だけど現実の医療問題に切り込みながらもここまで楽しませてくれる小説なんて他にないから比べようもないと思う。そしてフィクションでしか訴えることさえ出来ない、この国のダメさ加減にため息をつく。カネ配ってる場合じゃないから。
あ、あと何でもないシーンだが、田口先生が厚生労働省に入るときの警備員チェックの場面を入れたのにはそれなりの著者の揶揄の気持ちがあると思う。多分著者も取材か仕事かでそういう経験をして、それを心底不思議に思ったんだろうと推測する。
わたしも数年前に霞ヶ関の省庁に資料を貰うため出入りしていたが、9.11のテロ事件以降、ちょっと面倒になったのだ。今はどうかわからないが、当時は手荷物までチェックされた。しかしチェックすると言っても、こっちが開いたバッグの中を警備員がちらりと眺めるだけのもの。正直わたしがテロリストで爆弾を仕込んでいても気付かれない。意味のなさの真骨頂に正直、口が開いた。本気で心配なら空港にある金属探知機でも置いておいたほうがまだ役に立つのにそうしない意味が本当に分からない。ある意味、ここまで危機管理の薄い場所を狙うのはテロリストにとっても意味がないだろうなと逆説的に無理矢理納得したものだが、国の重要機関がこんなに馬鹿なのかと絶望も味わった。
そしてそれをどうにかしたいならまわりから馬鹿だと見られても理想を追うべきだと、この小説を読んでそう思った。理想を追う馬鹿馬鹿しさこそが、今のこの国に必要なことだとも。