きのうの世界(恩田陸)

きのうの世界

きのうの世界

恩田陸の最新長編。

塔と水路がある町のはずれ、「水無月橋」で見つかった死体。
一年前に失踪したはずの男は、なぜここで殺されたのか?

恩田陸の世界は半歩ずれている、と思う。それこそが恩田作品の魅力の源であるとわかった上でも、惜しいなと思う気持ちがあるのも本当だ。これだけ上手いのだから狙って書けばもっと話題になる作品が出来るんじゃないかと。いやもう十分に売れてるけど。それが半歩のずれゆえに売れているのか、半歩のずれあってなおここまで売れているのか、答えのでない疑問がふと湧いた。
そして恩田陸の作品は閉じている。その閉じ方の見事さが作品の印象を弱めていると言っては言い過ぎか。読んでいる間はもう誰も邪魔してくれるなとばかりに集中して読んでいる。だけど読み終われば、なにか興味深い夢を見たような気はするものの、その詳細を思い出せない気持ちの悪さを感じる寝起きの気分に近い。読んでる最中の高揚と読み終わった後の高揚がイコールで結ばれない。それは物語がきれいに閉じているから、なのだろうか。嫌な言い方かもしれないが、感想もあまり無い。そういう引っかかりの無さが悪いとはまったく思わないのだけど。
妙に否定的な言葉が並んでしまったような気もするけど、否定の気持ちは一切無いです。全部含めて好きですから、恩田陸。今日発売で今日一期読みですからね。面白いですよそりゃ。だけど「ずれている」ことや「閉じている」ことのほうが、正直作品そのものより感じて残ったと、それだけです。