夏から夏へ(佐藤多佳子)

夏から夏へ

夏から夏へ

書店の平台で<佐藤多佳子>の名前を見た時は心が躍った。うわ久しぶりじゃん!っていう喜び。だけど手に取って帯の文字読んでみれば「ノンフィクション」とあって、失礼ながら「えー」と落胆した。なんだ小説じゃないんだ、と。好きな小説家だからと言ってそのノンフィクションやエッセイまで面白いかと言えばそうでもない過去の経験もあるだけに、一瞬躊躇してパラパラとめくってみた。
そこで目に入ったのが………

みんなも走りたいんじゃないの? と末續は思った。
嬉しかった。こんな気持ちになったことはなかった。
自分たち選手が、観客を感動させたいと思っていた。感動させなきゃいけないと使命感に燃えていた。なのに、今、自分のほうが、猛烈に観客に感動させられている。俺は何か勘違いしていたんじゃないかと思った。ここで走る意味を。この舞台の本当の価値を。

うん、とひとつ頷いてそのままレジ直行。
なんでしょうね。この人の文章は読む人間の胸を熱くする。面白くないわけがなかった。アスリート及び関係者の言葉を丁寧にすくい出しながらも、インタビュアーである著者自身の興奮は一度濾過され、もっと効果的かつシンプルな表現で読み手の心をドンと強く打つのだ。
大変申し訳ないことにまったく興味なかったんだけど、北京の四継は絶対に見る。見てみたい、と思う。
というわけで、佐藤多佳子の作品ならと気になりつつも未読の人に言いたい。とくに『一瞬の風になれ』を面白いと思った人なら間違いはないと太鼓判押しておきます。読みさしの本を中断しても、これは北京オリンピック前に読むべき作品です。勝とうが負けようが、日本代表の四人の走りに目が釘付けになると思う。大好きな読書が縁もゆかりもない(わたしにとって、ですが……)オリンピックの陸上競技に繋がる経験もなかなかないんじゃないか、と今から胸が高鳴ってます。