照柿(上) (講談社文庫) 照柿(下) (講談社文庫)(高村薫)

照柿(上) (講談社文庫)

照柿(上) (講談社文庫)

照柿(下) (講談社文庫)

照柿(下) (講談社文庫)

最近疲れているせいかなぁ、ふわんとした小説やらこちらが神経研ぎすませないと対峙できない小説より、こっちの体調無視して無理矢理引き込んでくるのに夢中だ。今頃何言ってんだと一蹴されても立つ瀬ないが、いやー高村薫、面白いねぇ。
この作品を重厚たらしめてるのは、人が人を殺すという局面のその衝動的な心理、一般的に言えば殺意、そこに至るまでの描写の丹念さが第一にある。ほんの少し揺れただけで淵ギリギリまで一杯だった水がこぼれるように、人は人を殺すことがあるのだと。犯罪とは無縁の顔で生きる人間が次の日には人を殺してしまうかもしれないこと。そういう人間の危うさそのものがダイレクトに描かれた作品だと思う。
その本筋に合田刑事の弱さ、仕事絡みでの賭場通いにすれ違うに近い女への執着そして過去へのしがらみ、が見事に絡み合う、そう生み出した作者の技量には感嘆するしかない。
人間は弱いものだ。耳慣れた言葉がまた浸透する。そういう小説だった。