荒野(桜庭一樹)

荒野

荒野

桜庭一樹の最新刊!ってことで何も考えずにレジ直行、速攻読み出して気付きました。あぁ、荒野、荒野、荒野の恋……? 慌てて奥付あたりをめくり、書き下ろしの第三部が入っていることを確認して安心してまた読み始めました。とはいえ、わたしは一部二部もすっかり飛んでたんでこういうかたちで読み直せて良かったんだけど、最終巻を待っていた若いファンの子とかはどう思ったかなぁと、ちょっと心配。ファミ通文庫での三巻も同時発売すれば良かったのに。直木賞受賞で桜庭一樹を知った人やわたしのようなざる頭の大人はこっちの単行本を間違いなく買うだろからいいけど、待っていた中高生のファンにとって想定の倍以上の値段でしか買えないってのは、ちょっと売り手側の裏切りにも感じますがどうでしょうか。
ま、そこらへんさておき、本当にまとめて読めて良かった。すっごく素敵な少女小説桜庭一樹を現代の田辺聖子と呼びたい。いやご存命、どころか現在もご活躍の田辺さんに対して失礼きわまりないですが。でもなんか、似てるんだよね。永遠の少女小説家・田辺聖子にというよりは、古き懐かしき少女小説に、です。設定は笑っちゃうほどに現代的にベタベタで、親同士の再婚によって同居することになったクラスメートに恋!みたいな?(笑) でも胸がきゅうっとしちゃうんだよねぇ悔しいことに。だけどそんな禁断の愛が決してこの小説の主軸ではないのが、面白い。一番危ういはずの荒野の恋だけが凪のようにゆったりとしていて、まわりが激しく波揺れる。愛とか恋とかが揺れに揺れて、臆病な荒野にぶつかる。それでいて荒野が激しくぶれないのは、結局のところ彼女が他人に対して諦めているからだろうと、そういう気持ちがゼロではないとわかるだけに切ない。その一方で差し伸べる手を、ただ幼いとは思わない。恐ろしくも求めてしまう本能、それは人間がどう生きようとも捨てられないもので、ただ愛しいと思う。
人は誰でも誰かにかかわりたくて、自分以外の誰かがいるから生きていける、そういうことを胸に刻み込まされた小説だった。
うん、こういう小説もまた書いて欲しいですね。他にこういうの書ける人あんまりいないことだし。