ラットマン

ラットマン

ラットマン

ものすごくひっそりと更新再開。最後の更新が12月1日でそこから年末に向けてたくさんの面白い本が出てそのうちいくつかは読んだはずなのに。何年か続けていた今年のベスト的なこともせずに。桜庭一樹直木賞だというのに。下手すりゃこのまま、自分の人生の中で初めて継続できた読書日記もここでついにフェイドアウトになってしまうのか。はてなにさよならか。そう思ってぼんやりとしていたところで袖をぐいと引き寄せたのはやっぱり黙ったままではいられないくらい面白い本でした。これです。
そんなにミステリ通ではないというのに断言してみたい。今一番のミステリ作家は道夫秀介だと。もっと言えば同時代に生きてその新作を読める幸せを吹聴したいところだ。

結成十四年のアマチュアロックバンド。緩やかに、けれど確実に軋みはじめる人間関係。練習中のスタジオで起こった変死事件。姉と父を亡くした、幼いころの記憶。守りたかったのは誰だ。憎んでいたのは誰だ。過ちとは何だ。罪と罰をめぐる、道尾秀介の最高傑作。

騙し絵のように見たものの先入観によるイメージが、最悪なパターンで重なることによって生まれてしまった事件。ということに、最後のオチが明かされてやっと気付いてあぜんとする。誤解と偶然が、あり得ないことに憎悪と優しさをイコールで結んでしまってる。いやあり得ないというのは嘘だ。カラーの反転のような真逆の感情は、人間なら矛盾なくその両方を抱え込めるのだから。
何が言いたいのか自分でもよくわからないが、ただ絶賛したいのはこの小説のバランス感覚なんだろう。動物と並べられればネズミに見える、人間と並べられれば眼鏡をかけたおじさんに見える。そういう絵の存在とそれを見る人間の心理を見事ミステリという枠に収めたなぁと。
その実ひどくシンプルな事件を複雑なかたちにし、読者をここまでぐいぐいと読ませる、その小説の核が人間の残虐さと優しさという両極端な性質で、しかもそれを効果的に構成してミステリとして成功させた著者にはもう、アンタすげーよと言うしかない。
切ないラストは、今後の登場人物たちの人生に幸あれ、とまで思ってしまうほど引き寄せられて。
仕掛けの上手さが際立つ道尾作品の中では感情にあふれためずらしい作品かもしれない。だけどわたしにとってはそれが良かった。いや個人的な思いは別にしても完成度の高さという点で、ただ傑作だと思う。ますますファンになって、それが嬉しい。次の作品がもう楽しみだ。