私の男(桜庭一樹)

私の男

私の男

優雅だが、どこかうらぶれた男
一見、おとなしそうな若い女
アパートの押入れから漂う、罪の異臭
家族の愛とはなにか
越えてはならない、人と獣の境はどこにあるのか?
この世の裂け目に堕ちた父娘の過去の遡るーーーー
黒い冬の海と親子の禁忌を
圧倒的な筆力で描ききった著者の真骨頂!

うーん。
面白かった、ともたしかに思う。娘の華やかな結婚式から順に遡る父と娘の過去は、ほんとうに真冬の夜の海のように荒々しい勢いで、読むものを引きずり込んでくる。
だけど、ともに「みなしご」である父と娘がたったひとつしかない「つながり」を求めて、セックスや殺人をして、ただ溺れそうだったから目の前のわらをつかんだ、淳悟と花という二人の人間がともに過ごした、幸福でもあり不幸でもあった数年の物語だ、と言われればそうなのだけど。
異形の愛の物語ってやつでしょうか。設定はインパクトたっぷり、著者の迫力ある筆致がそれをあおり、だけど根本的なところで何を描きたかったのかがよくわからなくて、釈然としない思いも残る。
ま、フィクションであろうと近親相姦にはどうしても拒否反応がでてしまうという、わたしが読んだゆえの感想かもしれないけど。