三面記事小説(角田光代)

三面記事小説

三面記事小説

相変わらずこの人はなかなかのハイペースで新刊出してきますね。
今回は短編集。タイトル通り、いわゆる三面記事になりそうな事件をモチーフにしたもの。たとえば26年前に殺した女を自宅の敷地に埋めていた男が自首(「愛の巣」)、闇サイトに不倫相手の妻の殺害を依頼した女が警察に相談して逮捕(「ゆうべの花火」)、介護疲れで母親を殺害(「光の川」)………。何度も聞いたことあるような、もしくは今朝聞いたニュースだったかも? 
「ああまたか」、そう思うだけで直後に忘れてしまうニュースにも、それぞれの深いドラマがある。あたりまえのことだけど、それを想像もしない自分はどうなのか、と思わないでもない。想像したからどうなるもんでもないけど、自分が思ってるほどに他人事ではないという気もする。
介護疲れで肉親を殺害、という事件はかなり頻繁にニュースで耳にする。これはまだちょっと理解できるから、ふともし自分だったら、と考えることもある。きっと自分も苦しんで、苦しむことにも疲れて、そして殺す可能性も否定は出来ないと。
一方で、闇サイトに殺害を依頼したものの実行されないので騙されたのではないかと警察に相談、という事件を聞いたときははちょっと首をひねったくらいで、あまり考えなかった気がする。あまりに自分の思考回路と関わりのない事件については、わたしの脳はざるになるらしい。だけどちょっと考えればわかるけど、どこのバカが殺人依頼が履行されなかったからといって警察に訴えでるだろう。だとしたら目的はひとつ。まあ、人の本当の気持ちなんてわかるはずもないけど。
この短編集は悪趣味で面白い。悪趣味なんて言うとイヤな言い方だけど、でも小説ってそういう楽しみ方もあるよね? どこかで聞いた事件の裏側に入り込んで、擬似的に関わる。小説を通すことで、もちろんフィクションだけど、いろんな視点を手に入れられる。聞き流すような事件に、いつしか深く入り込んでしまう。だから面白い。


角田光代は「八日目の蝉」に続いてのサスペンス系ですね。違うステージに入ってきたかのようで、ファンとしても面白いです。