楽園に間借り(黒澤珠々)

楽園に間借り

楽園に間借り

第3回野性時代青春文学大賞受賞作らしい。
そういう前情報は一切なしで購入したのは、帯の推薦文が大森望氏によるものだったからですかね。エンタメ系でこの人が推薦文を書いている作品は、可も不可もなく楽しめるものだと、今のところ認識してますんで。ちょっとライトなものでも読みたいという気分もありまして。
で、その帯のコメントは………

“尻に××××を持つ男”百輔の悩み多きヒモライフに笑いっぱなし。
キャラ立ち最強の黒澤珠々デビュー作、ドラマ化熱烈希望!

……というわけでして、主人公はヒモです。しかしヒモって、なんか昭和の匂いがする言葉ですね。いえ、時代に関わらず一定数生息しているのはわかってますけど。そろそろ新しい呼び名を誰か付けてくれてもいいのではないかと。
で、主人公・百輔は就職活動に挫折しそうなころに合コンで出会った女性に養ってもらってる身で、ヒモライフ歴二年。ヒモといっても女からギャンブル代を巻き上げるとか風俗で働かせるとかではなく(わたしの発想が昭和か)、ただ平穏に日々を過ごすこと、ただそれだけが願い。だから彼女への気遣いや優しさは人一倍あるし、浮気もしないし、一応罪悪感も持っている。
一方百輔のヒモ仲間であるルイは天性のヒモ男。ジャニーズばりのルックスとテクニックに天然をブレンドして、罪悪感なく複数の女から金を巻き上げて、百輔さえもうっかり騙されちゃうほど。
「ヒモ」というわかりやすい例えを使ってここで描かれているのは、誤差が許されない男女のバランスである。
世間的なイメージと一番真逆にあるのが個人的な関係だ。百輔やルイはいわゆる「ヒモ」。彼女に住む場所も食べ物を得るお金も提供されている。だけど彼女が何よりも求める安らぎを、彼らは与えている。わかりやすいものとわかりにくいもののの交換………これって実はイコールだよね? 山田詠美の短編にもそういう物語があったような気がする。
でもこの物語はそこから一歩踏み込んで、「持つもの」と「持たざるもの」の微妙なバランスをわざと崩す。普通に考えれば「やっと訪れた幸せ」とも言うべき状況は、「崩壊」でしかなかった。
「求めるもの」は十人十色………そんな当たり前のことが脳裏をよぎりました。手放しで褒めるわけではありませんが、それぞれの価値観が交錯していくあたりがすごく上手く描かれた作品。次作も楽しみです。