天使の牙から (創元推理文庫)(ジョナサン・キャロル)

天使の牙から (創元推理文庫)

天使の牙から (創元推理文庫)

訳者あとがきによれば本書は「絶版になりネット上でも高い値段で取引されていた」らしいが、このたび待望の文庫化ということで。めでたいですね。


ジョナサン・キャロルという人は、ホントどんな物語を紡ぎだすかわからない人でして。まぁおおまかにいえばファンタジー、でもとくに読者の度肝を抜くようなファンタジーを書く人なんです。
というわけであらすじは説明しづらいので、引っ張ってきましょう。

「死にかけてるのってどんなものかって? もう生きてないんだ。バランス取ってるだけ」男は癌で余命幾許もないかつてのTVの人気者。「人生でほしいと思うものには必ず牙があるよ」女は若くしてハリウッドを去り隠遁生活を送る元女優。男は死神から不思議な力を授かり、女は報道写真家と恋に落ちた……やがて二人は戦慄に満ちた邂逅をとげる。愛と死の錬金術士が紡ぐ傑作!

ほらわけがわからない。読み終わってもまだ、わけのわからない世界からなかなか抜け出せないほどに。


ギリシャ神話ならぬ、キャロル神話。死神にもてあそばれ、そして対峙する、生きている人間たちの物語だ。奇妙な手紙から始まったこの物語は、ハリウッド女優の劇的な人生や死を目前にしたTVスターのホラーチックな体験で読者の興味をたっぷりと引きつつ、ラストで一転、死神と人間という圧倒的な力の差に、主人公とそして読者さえも奈落の底に突き落とされた思い。だけどラストのラストで、細くも強い光が射すのだ。


代表作である『死者の書』や『月の骨』といった作品に近い、「いかにもキャロル」テイストな作品。幻想と現実のあいだでゆらゆらしながら、一気に読み終えてしまった。やっぱいいよね、キャロルは。


ところで新作は出ないんでしょうか。ここ一年、短編集とか単行本からの文庫化しか出てないし。遅れてきたファンとしては単行本でも喜んで買いますんで、新作をぜひ読ませていただきたいもんです。