星新一 一〇〇一話をつくった人(最相葉月)

星新一 一〇〇一話をつくった人

星新一 一〇〇一話をつくった人

本作に興味を持ったのは、『S-Fマガジン 2007年 06月号 [雑誌]』の連載「大森望のSF観光局」で4ページまるまるを使って、この作品の魅力がたっぷりと紹介されていたからだ。ただ困ったことに、わたしは星新一の作品をほとんど読んでいない。推測でしかないがわたしの学生時代は、SFというジャンルが盛り上がった世代と、ラノベという新たなSFの温床が盛り上がる世代の、狭間の世代であった気がする。そのせいかどうかしらないが、「星新一」という存在を知らない人は少なかったにしろ、彼の作品にハマっているという人がまわりにいなかったのも確かだ。そんなわけで彼の作品をほとんど読んでいない、ついでに著者の代表作でもある『絶対音感』も読んでないわたしが、読んでいいのか、というか読んで面白いのか、疑問に思いながらも、魅惑的な書評にまんまとのせられて購入してしまいました。


で、これが面白かったんですね。ほぼ一気読み。星新一という作家に興味があるかどうか微妙な読者をぐぐいと引き寄せる、最相葉月というノンフィクション作家の実力にしびれた感じ。いや読めば読むほどたしかに星新一という人間に興味はわいてくるんです。でもそう道筋を付けているのはこの著者だなと。


そしてこの作品に好感が持てるのは、著者が必要以上に臆することもなく、かつ勝手な想像を自分に許していないこと、それがよくわかるからかもしれない。大量の資料と多大な取材によって、可能な限り真実に近づこうとする著者の姿勢が感じられる。
例えば最盛期を過ぎた星がショート・ショートの1000話を目指そうとした理由。それについて明確な星の心境を記した記録はないため、著者はその前後の星の身の回りを洗って、その決意の源を探ろうとする。だけど断定はしない。星の心を揺るがしたであろう、様々な事件を並べるだけだ。だからこそリアリティーがある。誰しも大事なことを決めることに、理由がひとつな訳ないからだ。


またまったく知らなかっただけに、星新一の人生も興味深い。戦中戦後に活躍した星製薬という大会社の跡継ぎであったこと、日本におけるSFの礎を築いた一員であったこと、というより彼の作品が普遍的であったからこそSFというジャンルが広がっていったこと、だけど彼の最盛期が日本のSF界最盛期とずれていたこと。「SF界の天皇」的存在であった星新一の、光と影があますことなく感じられる一作だ。


とりあえず、星新一最相葉月も読んだことのないわたしが、読んで面白かったという。それしかオススメ材料はないわけですが、逆にこれ以上のオススメ材料はないですよね? ましてや星新一最相葉月ファンは購入頂いて間違いないと思いますよ。