ダーティ・ワーク(絲山秋子)

ダーティ・ワーク

ダーティ・ワーク

意外なことに本作が、絲山さん初の連作短編集らしい。

「おまえ、遠慮しいなんだから」

「それ、あんたの悪い癖だよ、面倒くさがるの」

これは無愛想な女ギタリスト・熊井に向けられた、恋人と友達からのセリフだ。
この小説に出てくる大人たちは皆、ちょっと臆病で、ちょっと腰が重い。それが大人になるということ、なんて説教臭いことじゃなくて、ちょっと臆病な自分、ちょっと腰の重い自分をわかっているからこそ、大切な友人の背中を優しく押してあげることができる。自分の弱さを認めた人間だからこそ得られる優しさ。そんな柔らかい糸で繋がっている、すごく素敵な大人の短編集だ。優しさというのは、相手を受入れられる自分の度量を問われることなのだと、胸に沁みる一作だった。