クジラの彼(有川浩)

クジラの彼

クジラの彼

いい年した大人が活字でベタ甘ラブロマ好きで何が悪い!

…と開き直り気味な著者あとがきの冒頭のこの一文が、まさにこの短編集の内容を現してくれてると思います(笑


★「クジラの彼」
『海の底』のスピンオフ。
「潜水艦とクジラが似てるってセンスに痺れたね。潜水艦乗りには殺し文句じゃない?」……そうなのか。一応覚えておこう。
海上自衛隊員との合コンで出会った冬原とつき合うことになった主人公・聡子。何ヶ月も連絡がつかない「潜水艦乗り」との恋は辛い。君が別れたいと思った時に別れたことにしていいから、と……。
障害のある恋は燃えますな。そのぶんしんどいだろうけど。でもすごくロマンチックだ。自分だったらどんなメールを送るか考えてしまったわ。


★「ロールアウト」
大手工業メーカーに勤める航空設計士・絵里と、どこか冷徹なイメージの自衛官・高科。新たな航空機のトイレをめぐる二人の闘いは長く険しく…?
あとがきによれば「自衛隊の広報の方に『これは内部に情報提供者がいないと書けないはずだ!」と褒めて頂いた?作品」らしい。絶対に必要なものなのに軽視されがちな「トイレ」というものから話がふくらんでいくのが面白い。


★「国防レンアイ」
陰では「鬼軍曹」と呼ばれる女性陸上自衛官(WAC)・舞子と、彼女に振り回されっぱなしの同期・伸下。ろくでもない男に引っかかっては伸下を呼び出しやけ酒する舞子だが、さて伸下の本当の気持ちは……?
自衛官の恋って本当に制約が多いなぁと、つくづく思った。自衛官同士でもむずかしいのに、その他の職業の人と上手くいく可能性なんてどのくらいのもんなんだろう? なんか気の毒になってきちゃった。でもこの物語も最後はアマアマでハッピーです。


★「有能な彼女」
これも『海の底』のスピンオフ。こちらは夏木と望のその後、ですね。
仕事では無茶ばっかりする問題児の夏木なのに、恋愛方面では弱腰です。そのギャップもまたいいですね。似た者同士のナイスカップル。お幸せに、といったかんじです。


★「脱柵エレジー
やる気あふれる新人隊員が深夜に脱柵する理由とは…?
自衛官の恋の難しさ・初心者バージョンですね。そりゃ高校卒業してすぐくらいだったら、会えない時間が長い自衛官との恋は難しいだろうなぁ。30歳くらいになると意外に大丈夫になるんだけどね〜。


★「ファイターパイロットの君」
これですよ。スピンオフで待ってたカップルは! 『空の中』の高巳&光稀のその後です。
天然ツンデレのファイターパイロット・光稀のかわいさは異常。そして鷹揚に構えながらも光稀の隙を見逃さない高巳もやっぱ素敵だ! 二人の結婚生活を軸に、初デートやプロポーズまでしっかりベタ甘エピソード盛りだくさんで、ファンサービスあふれる一作です。『空の中』を読み返したくなったなぁ。


というわけで、本人が開き直ってる通り、ベタ甘なロマンスばかりです。でも「ケッ!なんだこりゃ」とは、けして思わせないキュートな魅力たっぷりな短編集。ニコニコ(ニヤニヤ?)しながら一気読みしてしまいましたわ。
自衛隊員との恋=障害だらけという、他の恋愛小説とはかけ離れた設定の面白さがあるし、自衛隊の「仕事」ではなく「生活」のほうに着目してるのも興味深い。
ま、ストーリー自体はじりじりさせて最後はハッピーエンドという、オーソドックスな少女漫画風ですが、それが何か? こういうのが好きで何が悪い!と著者とともに開き直りたいと思います。
とにかくハッピーになれるエンタメ恋愛短編集。ぜひぜひオススメです。