四畳半神話大系(森見登美彦)
- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2004/12
- メディア: 単行本
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「みそぎ」バージョンでは、恋を邪魔することに明け暮れサークルから追い出され、弟子入りバージョンでは代理代理戦争に巻き込まれ、「ほんわか」バージョンではラブドールと同居、<福猫飯店>バージョンでは無限大の四畳半に閉じ込められ……? でもどの世界でも、他人の不幸が三度の飯より大好きな小津に振り回され、上の部屋に住む師匠のために奔走し、蛾の大群に襲われ、怪しげな占い師に「好機はコロッセオ」とわけのわからないことを言われ、そして明石さんに恋をする。というわけでどれを選ぼうとも「異性との健全な交際、学問への精進、肉体の鍛錬など、社会的有為の人材となるための布石をことごとく外し、異性からの孤立、学問の放棄、肉体の衰弱化などの打たんでも良い布石を狙い澄まして打ちまくってきた」に変わりはなく、実のない二年間を後悔するのである。
なんか身にしみるわ。わたしも後悔だらけの学生生活を送ってきたクチですから。サークルというものが肌に合わなくてとっとと戦線離脱したくせに、なんだか楽しそうなまわりの若人たちがまぶしかったものさ。かといって勉学に打ち込んだわけでもなく、4年間何をしていたのか今ひとつ思い出せないくらいだ。今だったらもうちょっと積極的に学生生活を満喫できるのではないかと思うのだが、どうだろう。やっぱり同じ結果が待ってる気がしなくもない。
だからといって思い出したくもないほど暗澹とした時代だったわけでもなく、この主人公と同じく、まったくもって無益なことを一所懸命やったりしてそれはそれで楽しく、まぁでも今振り返っても「いい思い出」というより「アホだなぁ」くらいにしか思わないのだが。何も有益なことをしてなかったからこそ、書き記すのもはばかられるようなどうでもいいことにパワーを傾ける時間があったということだろう。だからこの小説は、自分にとってすごく近い。無駄な時間過ごしたなぁという思い出したくもない後悔と、そろそろ忘れてもいいのではというくらい無意味な馬鹿騒ぎ。どちらにせよ意味はないというあたりがむなしいが。
そしてこの小説もまた、森見登美彦らしいおかしくて賑やかなエピソードたっぷり。4つのパラレルワールドがリンクする全体の構成も、読んでいて楽しい。
これで未読本がなくなってしまったのが寂しい限り。前後して読んだけど『太陽の塔』『四畳半神話体系』『夜は短し歩けよ乙女』は似たタイプの作品で、『きつねのはなし』がちょっと雰囲気が変わってたんですね。今のところ一番のお気に入りは『夜は短し歩けよ乙女』だけど、でもどれも魅力たっぷりでハズレなし。次はどんなタイプの作品が出てくるか、とても楽しみだ。