きつねのはなし(森見登美彦)

きつねのはなし

きつねのはなし

二日連続での森見登美彦、であります。
これまで読んだ『太陽の塔』『夜は短し歩けよ乙女』の二冊とは雰囲気ががらりと変わる。前二作で十二分に読者を楽しませてくれたコミカルさはまったくなく、同じく京都に住む大学生を主人公にしながらも、本作は現代の「百物語」というべき上質なホラーファンタジーの連作短編集に仕上がっていて、この作家の奥深さに驚くのだ。


■「きつねのはなし」
ナツメさんという若い女主人が経営する古道具屋でバイトをすることになった「私」は、主人の代わりになじみの客である天城の宅へ使いにいくようになる。どこか恐ろしい雰囲気の天城とはできるだけ距離をたもっていたが、あるきっかけにより天城の頼みをきいてしまった「私」のまわりで、奇妙なことが起こりはじめる。節分祭、きつねの面、からくり幻燈……天城の手のひらの上で悪い夢が連鎖する。
■「現実の中の龍」
口を開けば面白い話ばかりする先輩がいた。トルコを旅した話、古道具屋で働いてたときに見聞きした変な客たち、自伝に取り憑かれた祖父、消息不明だった兄が大道芸人になっていたこと……。それらはとても魅力的で、「私」はしばしば先輩の部屋を訪ねていた。嘘か真か、黒皮のノートと先輩がつくりあげた世界に、「私」もわたしも夢中になる。
■「魔」
「私」は高校生・修二の家庭教師として西田酒屋に通っていたが、ちょうど同じ時期、その近所で通り魔が出るともっぱらの噂だった。修二の兄である直也とその友人の秋月、近所に住む夏尾、この三人が何か秘密を握っているようなのだが……? 解き放れた「ケモノ」があらわになる急展開のラスト。
■「水神」
祖父の通夜の夜、ある古道具屋が祖父が預けていた家宝を届けにくるという。大学生の「私」と父、父の兄二人の四人でその古道具屋を待ちながら、遺影の前で酒盛りをすることに。酒豪で頑固者だった祖父の死に際の奇行、不可思議な死を迎えた二番目の妻、謎の言葉を残して屋敷を去った家政婦、兄弟同士の他愛ない思い出……酒と昔話がまわりにまわり、そしてついに時刻を大幅に過ぎて古道具屋がやって来た。彼女が持ってきた「家宝」とは……?


不可思議な「語り」と奇妙な「現実」が交錯して、なんともいえない気味悪さが演出された4つの物語。上手いなぁ。『太陽の塔』も面白かったと記憶してるけど、この二日で『夜は短し歩けよ乙女』と本書を読んで、さらにファンになってしまった。未読は『四畳半神話体系』だけなのでそれをさっそく読みたい。