初恋温泉(吉田修一)★★★★☆

初恋温泉
初恋温泉
posted with 簡単リンクくん at 2006. 8.16
吉田 修一著
集英社 (2006.6)
通常2-3日以内に発送します。
パンダラブな旅レビューはそろそろ辞めて本業(?)。しかし旅のあいだで読めたのはこの一冊だけでした。というかどうせこの旅のあいだだと読めても一冊だろうなと思っていたので「初恋温泉」……なんとなく旅にはいいかなぁと、中身はまったく知らずに。国内の中間小説では、角田光代吉田修一はもう間違いない!と信じてるので、安全パイなチョイスです。
本作は<宿>を共通項にした短編集。男女の関係で温泉宿なんてモノが絡んでくると<しっぽり>なんてなんとなく使いたくない言葉が浮かんでくるが、当然ながらそうではない。
つい前夜に別れ話を切り出された妻との熱海旅行「初恋温泉」、おしゃべりで仕切りたがりな似た者同士のカップルが結婚前に出かけた東北の温泉旅行「白雪温泉」、お互いにけじめをつけられない不倫カップルの京都での逢瀬「ためらいの湯」、せきをきったように価値観の違いがあふれでる夫婦の物語「風来温泉」、高校生ながら自分で初めて予約した恋人との一泊温泉旅行「純情温泉」。
ぐぐっときたのは「ためらいの湯」かなぁ。お互いに不倫だからお互いに責任がなくて優しく出来て、でももし別れようとすれば自分が悪者になるしかない、でもそうはなりたくなくて……。一方で「純情温泉」もいい。いいっていうか読んでいて恥ずかしい。この恋は永遠だと思いこんでしまう男の子の浅はかさも、それを流しながらもその不安を相手にぶつけてしまう女の子の未熟さも、恥ずかしい。これを読むと男でも女でも、あの頃と同じミスをしでかしてるのではないかと、ついつい今の恋愛をあらためて考えてしまうのではないか。
本書に収められているものはすべて、恋の行く末。遠かれ遅かれ終わるであろう二人の関係を、鮮やかにやさしくゆったりと描く。だれにとっても過去か未来だからこそ、じんとくる。
久々に素敵な恋愛小説を読んだと、そう思いました。