絲的メイソウ(絲山秋子)★★★★★

絲的メイソウ

絲的メイソウ

絲山秋子、初のエッセイ集。可愛くて愉快な表紙が気に入った。
う〜ん面白い! さっぱりしてるのに腹黒い……? なんかそんな著者のメイソウが上等な文章でまとめられた一作だ。さばさばとした辛口が心地よくて、いつまでも読んでたいような気がして、読み終えた時はなんかさみしくなったほどだ。
印象的なのは「恋のトラバター」。「『三十八歳七ヶ月、いい年して恋に落ちました』/近況を編集者に聞かれてそう答えたら、えらく笑われて後悔した。」…とはじまるこのエッセイでは、リアルタイムで独り相撲な著者の恋がつづられる。もーこの人は芯の芯から物書きだなと思う。恋によって右往左往する自分自身を、これほどクールに、かつ笑い飛ばせるような文章を書ける人はそういないのではないかと。
「喫煙党」もいい。いいって思うのはわたしが喫煙党だからか。「本当はこんなことは言いたくないのだ。禁酒法時代のアメリカを想像しながら、いつかこんな時代は過ぎ去るのだからそれまで人に迷惑をかけずに大人しく過ごしたいと思っていたのだ。しかしもう限界だ。今日という今日こそは言わせてもらう。」おぉ、言ってくれ姉さん!と快気をあげたのは私だけではあるまい。なぜ煙草だけがこれほどまでに標的にされているのかとイライラしているスモーカーの叫びがここにある。ちなみにこないだドトール(スモーカーの憩いの場)で、「ここって受動喫煙すごくな〜い?」と騒いでるバカ女の横でいつもより多く吸ったことを告白しておこう。目の前にあるスタバに行けよ! しかもその友達の女が「お願い、1本だけ吸わせて」と哀願しても「ダメ!わたしは風紀委員だから!」と頑に聞き入れなかった。会話から察するに二人は大学生なのに、なぜ彼女は風紀委員であると主張するのか、自分が風紀委員的な存在であると主張して何の得があるのか、風紀委員はモテないよ?と思いつつ、とにかくその女の声がでかいために読書に集中出来ない。それでも吸いたいという友達に対して一言、「じゃぁ店の外で吸って!」。狭い店内にいるほとんどのお客(静かなスモーカーたち)が聞いていたと思うが、その客すべてが「おまえが外に出ろよ」と心の中でツッコんだだろうことは想像に難くない。
話が脇にそれた。その他では、なんとエッセイ一編すべて五七五で書いた「世の中よろず五七調」もうならされるし、意外に知ることのない大手出版社の内部をレポートした「講談社24時」も興味深い(講談社の図書室、行ってみたい!)。
とにかく楽しめて、絲山小説のファンとしてもそれが嬉しかった。小説が面白くてもエッセイは好みに合わない作家は多いもの。この人のエッセイは小説と同じく上等です。これからもエッセイが出たら単行本で買って読みたいと思う。