夜をゆく飛行機(角田光代)★★★★★
- 作者: 角田光代
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/07
- メディア: 単行本
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で、これは声を大にして言いたい。買いです。
主人公は酒屋の四女で高校生の里々子。長女はすでに結婚して家を出た有子、次女は引きこもりがちな寿子、三女は物干し台をルーフバルコニーと呼び読者モデルに憧れる素子、そして学歴にコンプレックスを抱く父親と母親。変わることのないと思われた家族の変容がじっくりと描かれる。
ここで描かれるのは、<家族>の変化である。時を経るにつれ<家族>が変化していくことを、わかっていても認めたくない、心の中にある<家族>のままであってほしいと、実は誰もが思っていると思う。成長した子供である自分自身が壊していることを認識しながら、<家族>の変化をすでに知っている親よりもずっと、変化してほしくないと願う、その丁寧に描かれた気持が切ない。
長編としては前作の『対岸の彼女』とは比べ物にならないくらい、上手い。家族を赤裸々に描くことによって小説家としてデビューした寿子、その作品によって揺れる家族、そして不変と信じていた家族の変化を、多感な末娘の視点で描く。『対岸の彼女』以降の短編集も冴え渡っていたが、長編で読めばその成長ぶりがどれだけのものか、読んだ人にはわかってもらえると思う。
そうしてそのとき、私の目の前で、スクリーンに映し出されたみたいに鮮やかな光景がくるくるとまわりだした。にぎやかな朝の洗面所、有子の駆け落ちとその後の静けさ、テレビの音とおかずの並んだ食卓、埃をかぶった日本酒と母と客が笑う声。そうか、と私はひそかに納得した。そうか寿子は、小説家になりたかったんじゃなくて谷島家の時間を止めてみたかったんだ。だれも年齢を重ねていかないアニメ番組だ。チャンネルを会わせればいつでもそこで滑稽な事件が起こり、時間内にそれは解決し、来週もまたおんなじことが起きる。そこではだれも出ていかずだれもいなくならない。私も恋を知らず、素子は長いあいだかけて素顔メイクをし、有子は白いウェディングドレスでほほえむ。私たちのすることは全部、はじめたときから終わっている。有子はそう言ったけれど、その反対のことをこそ寿子はやりたかったのだ。はじまりもない終りもない永遠の繰り返し。
これは、現時点で角田光代の最高傑作と言いたいです。というか、今の文学界で、これほど脂ののった作家はいないと思う。もうホントに、この作品に関しては「読んでほしい!」というしかないです。損はさせません。とにかく、角田光代好きな人も好きじゃない人にも読んでほしい作品。小説のレベルとしては、確実に今年の国内小説ベスト10に入る出来ですから! 保証します。