日々の泡 (新潮文庫)(ボリス・ヴィアン)

日々の泡 (新潮文庫)

日々の泡 (新潮文庫)

これは文句なしに面白かった!
お金持ちでハンサムだがちょっと内向的なコラン、ある思想家に心酔する友人・シック、コランと運命的な恋に落ちるも病を患うクロエ、愛するシックを狂気に陥れた思想家を憎むアリーズ、色男な料理人・ニコラと、その謙虚な恋人・イジス。悲しさもどこか喜劇的な青春の物語。
いつまでも子供のままでいられない。当たり前のことだが、この作品の登場人物はあまりに無防備すぎる。純粋といえば聞こえはいいが、頭の足りない人たちでもあると思う。でもこの登場人物たちはみな必死だ。馬鹿なのに必死。だからついついこの物語に入り込んでしまう。そのあたりは、この作家も無防備に感じる。もしかしたら狙ってるのかもしれないけど。
でもひたすら上手いんです。全体像を見据えた上での表現の変化がたまらない。それを端的に現してるのが天井だと思う。最初は天井は高かったのだ。それが徐々に低くなってくる。小説の中でも直接的にそれは描かれているのだが、それは実際のところ登場人物の気持ちそのものを現している。いつまでもこの瞬間が続くのだという青春期の傲慢は、否応なく現実にぶつかることによって天井の存在を知ってしまう。しかもそれは、受け入れるしかないのだ。
この作品で描かれるのは、上手く「大人」へ移行できなかった不器用な人間たちだ。とくに男性の持つ一面をリアルに切り取ったように思う。基本受け身で予想外のトラブルにはおたおたして甲斐性のないコラン、典型的なオタ系のシック、どんなときも冷静で気配りが出来るがシニカルなニコル。わりとベタですよね。
話自体も実はベタベタで、そのベタさを中和させるような奇妙なエピソードが多い。だけどその奇妙なエピソードこそがストーリー全体で進行する閉塞感をもろに表現しているから、うなってしまうのだ。
いやはや、面白かったです。大学生くらいで読むとさらに楽しめるかも。