嫌われ松子の一年(中谷美紀)

嫌われ松子の一年

嫌われ松子の一年

ハマり過ぎかしら。
これは「嫌われ松子の一生」の主演女優である中谷美紀が、撮影中につけていた日記をもとに書き下ろしたエッセイである。映画では素直に中谷美紀の根性に感動したし、撮影中の中島監督とのバトルについてもメディアで伝えられていたので、ちょいと興味がわいたのだ。
で、これが意外にもといっては失礼かも知れないけど、面白かったんですね。中谷美紀と、中島哲也監督を主に他のキャストやスタッフたちと交わした会話を抽出して書いてあるので、日記であっても「わたしが、わたしが」という押し付けがましさはなくて抑えたトーン。なのに面白いのはまさに、このエッセイの主軸である中谷美紀と中島監督のやり取りがそのまんま面白いからに他ならない。すぐに「殺してやる」だの「うざい」など怒りだすこの監督も相当変な人だとは思うが、中谷美紀も負けてないのである。辛辣なやり取りもどこかコミカル。例えば中島監督が遅刻してきたとき……

「監督がずいぶん遅いので、てっきり次回作『嫌われ哲也の一生』の現場へ行ってしまったのかと思いました」
 血走った眼をギョロリと光らせて監督が言い放つ。
「ちっくしょう、降ろしてやる! そして俺も降りてやる!」
「あれ? 怒っちゃいましたか? 次に来たら別の女優さんが松子を演じていたりして」

こんなかんじなんです。大人と子供みたい。だけど中谷美紀もずっと余裕でかわしてたわけではなく、ついに監督のデリカシーのなさに気持の糸が切れる。

今までだったら仕事を放棄して帰るなんて考えられなかったけど、自分の行動に迷いはなく、この後どんな運命が待っていようと全て受け入れるつもりだった。この作品が完成せず、女優としての立場が危うくなることも含め、損害賠償を請求されようと、構わないという心づもりだった。

この人は何に対しても「本気」な人なんだなぁと思う。
中島監督も本書に文章を寄せているが「この本の内容は真実です。中谷さんごめんなさい。」と前置きした上で中谷美紀を語る。

それにしても中谷さんはすごい。僕はどの現場でも俳優さんたちと雑談することはほとんどないし、する必要もないと思ってるんだけど、中谷さんはやたら話しかけてくるんですよね。普通は僕が”寄ってくるな”オーラを出しているので、みんな自然と離れていくんだけど、離れるどころかどんどん寄ってくる。「うざい!」と言ってもガンガン近づいてくる。中谷さんは煙草が嫌いだから、煙草を吸えば寄ってこないだろうと思ってスパスパ吸ったのに、全然離れない。離れるどころか僕以上に毒を吐いてくる。何なんだろう、この人は、と思いましたよ。

映画を見てこのエッセイを読んで、中谷美紀のイメージがガラリと変わったなぁ。さらに撮影現場のウラ話としても楽しめる、おいしいエッセイでありました。