神様のパズル (ハルキ文庫)(機本伸司)★★★★

神様のパズル (ハルキ文庫)

神様のパズル (ハルキ文庫)

留年寸前の僕が担当教授から命じられたのは、不登校の女子学生・穂瑞沙羅華をゼミに参加させるようにとの無理難題だった。天才さゆえに大学側も持て余し気味という穂瑞。だが、究極の疑問「宇宙を作ることはできるのか?」をぶつけてみたところ、なんと彼女は、ゼミに現れたのだ。僕は穂瑞と同じチームで、宇宙が作れることを立証しなければならないことになるのだが…。第三回小松左京賞受賞作。

ラノベっぽい表紙だけど、これが中身は意外にハードなんです。
カタチとしては古典的な本格ミステリかなぁ。人嫌いの超天才少女と、お人好しゆえついつい巻き込まれてしまう冴えない大学生、というコンビは、桜庭一樹の『GOSICK』のヴィクトリカ&一弥を彷彿とさせるけど、ま、基本はホームズ&ワトソンですね。
それで中身はというと、<宇宙の創世は可能か否か?>という壮大なテーマに取り組むSF的な肉付けが分厚い。沙羅華と綿さんの会話シーンが多いのだが、これが専門用語バンバンでして。まぁワトソン役の綿さんもまがりなりにも物理のゼミをとってるくらいだから、そもそものハードルが高いわけだけども。でも解説の大森望氏によれば、たいていのSF読者は彼より宇宙論に詳しいのではないかと…そうなのか。
そして最大の魅力は<天才少女>沙羅華を一人の人間としてきっちり描いていることだろう。4歳にして微積分を理解し、マスコミからもてはやされた少女。飛び級での進学で大学の広告塔となり、のちに世間に対する不信感と母親との不仲に苦しむ。そして彼女と対をなすかのように描かれているのが、研究施設そばの農家のおばあさんだ。彼女の人生を「哀れ」と切り捨てる沙羅華に反発する綿さん……ここのエピソードは深い。精子バンクを利用した母親の意図通りに生まれ、並外れた頭脳で世間の注目を集め、自分は何なのか?と苦悩する少女。農家に嫁ぎ、子供を産み、夫を送り、ひとりになった今も「そういうものだから」という理由で畑を守るおばあさん。何のための人生か? この問いがストーリーに厚みを加えている。
そしてゼミのテーマである宇宙の創世に関わる<神のパズル>へのアプローチ、追いつめられる『むげん』のプロジェクト、壊れかける沙羅華の心……という複合的なスリリングさが光るストーリー展開。ゼミ内の微妙な恋愛関係もちょっとしたスパイス。
一作でコンビ解消させるこのラストは残念な気もするが、人間味のあるラストとも言えるし、満足です。精神的に追いつめられている沙羅華の心の揺れが気になって気になって、一気読みしてしまいました。面白かったです。