頼むから静かにしてくれ〈1〉 (村上春樹翻訳ライブラリー)(レイモンド・カーヴァー)★★★★☆

頼むから静かにしてくれ〈1〉 (村上春樹翻訳ライブラリー)

頼むから静かにしてくれ〈1〉 (村上春樹翻訳ライブラリー)

この人の作品を読むのも初めてだし、村上春樹が訳した小説を読むのも初めて。
とても平凡な日常の中、他者と関わることによって生まれるさざ波のようなワンシーンを切り取った短編集。デビュー作である短編集の半分を収めたのが本書のようですね。
一編一編から受ける印象は驚くほどに薄い。起承転結もないし、なぜここに切り込むの?と疑ってしまうほどなんてことのないシーンばかりだし。
でも、だからこそこの小説は今なお新鮮だ。読者を楽しませる要素はゼロに近いのに、ここに描かれてるのは人間そのものなのだから。考えれば考えるほど、この小説の凄さがじわじわと理解できる。
のぞき男を観察する女、妻にダイエットを勧める夫、学校をずる休みして釣りに行く少年、水タバコにラリる二組の夫婦、とんでもないデブの客の給仕をするウェイトレス……登場人物たちに対して、著者は一切その存在を現さない。何の感想も批判も加えない。たんたんと、本当にたんたんと描く。そして、そこには恐ろしいほどのリアリティが残る。
この小説は隠しカメラのよう。まさか見られてるとは思わない、そんな生々しさがある。とるにたらない、でも他人には知られたくない内面。口にも態度にも表さない自分の心は自分だけのもの、と誰もが信じているはずなのに、そこに切り込んでくる。そんなところにクローズアップした小説は、初めて読んだ。
正直、面白い小説じゃありません。でも、読み終えて改めて考えれば考えるほど、胸に深く突き刺さる、息を呑むほどに新しい小説。とりあえずまだ一作しか読んでないんで、他の作品も読んでまたじっくりと考えたいと思います。