灰色の輝ける贈り物 (新潮クレスト・ブックス)(アリステア・マクラウド)★★★★★

灰色の輝ける贈り物 (新潮クレスト・ブックス)

灰色の輝ける贈り物 (新潮クレスト・ブックス)

やっぱりあなどれなぬ新潮クレストブックス強化月間。
著者はカナダの作家で、赤毛のアンの舞台となったプリンス・エドワード島の隣の、ケープ・ブレトン島生まれ。小説の舞台もその島が多いよう。31年間で16編という寡作だけど、短編の名手としてとても評価の高い作家らしい。

舞台は、スコットランド高地からの移民の島カナダ、ケープ・ブレトン。美しく苛酷な自然の中で、漁師や坑夫を生業とし、脈々と流れる“血”への思いを胸に人々は生きている。祖父母、親、そしてこれからの道を探す子の、世代間の相克と絆、孤独、別れ、死の様を、語りつぐ物語として静かに鮮明に紡いだ、寡作の名手による最初の8篇。

胸が痛い。胸が痛いよ。
ここに収められた作品は家族の物語。そのほとんどがの父親は漁師や炭坑夫などの労働者たちで、子供たちはやがて大きくなり故郷を離れる、そういう物語だ。子供の旅立ちは、たとえそれを親が望んでも反対しても、やっぱり切なくて、子供からすれば後ろめたいものがある。だからこの短編集はぐいぐい読み進めるわけにはいかなかった。胸を引っ掻かれるたびに、ため息をついて。
親子でお互いの価値観を認め合えないというのは、なんて辛いことなんだろう。家族なのに。でも家族だからこそ、あきらめることができない。しかもこの短編集が舞台としている時代の親たちは読み書きすら出来なくて、必死に働いて子供を大学に進学させようとする。子供たちは自分とは違う人生を歩んでほしいと願いつつ、でも自分から離れていくのが寂しいと思う。それを子供たちもちゃんとわかってて、でも故郷を出れば忙しくてなかなか帰郷することもなくて。
この物語は、親子であってもわかりあえないことはある、ということを残酷に突きつけてくる。でも、たとえわかり合えなくても遠く離れても、お互いを思い続けられるのは家族しかないんじゃないかと、改めて気付かせてくれる。
そこまでしみじみ読ませるエピソードも素晴らしい。炭坑夫の過酷で命をかけた仕事ぶり、出立の日に知った父親の若き日、都会育ちの嫁と根っから労働者の父親の埋まることのない溝。鮮やかだから切ない。
設定や時代は驚くほど限られた中で描かれた小説だけど、場所も時代も超えて読むことができる物語だと思う。クレストシリーズで彼の他の作品が2冊出てるようなので、次はそれを読みたい。