まほろ駅前多田便利軒(三浦しをん/文芸春秋)★★★★★

まほろ駅前多田便利軒
久々に、三浦しをんでガツンと来た気がします。これまでの作品の中でも一番いいかも。


舞台は東京のはずれに位置する”まほろ市”。ひっそりとしたこの街の駅前で便利屋を営む男・多田は、常連の仕事帰りに、高校時代の同級生である行天と再会する。高校3年間でひと言しか発しなかった変人だったし、仲が良かったわけでももちろんないが、「行くところがなくなった」行天をなぜか事務所に寝泊まりさせることになってしまう。普通に会話はするものの、やはり行天は変人ですべてが謎。ウマが合うんだか合わないんだかわからないこのコンビに、なぜか街のきな臭い事件が次々と吸い寄せられてくるのだが…。


ストーリー自体は、「家族」をキーワードに、様々な事件を通して関わる人々の心の痛みを丹念に描きながら、徐々に主人公二人の心の傷に触れていく展開。ぐっと来る。なのに全体を通してみればどこか軽快で読んでいてとても楽しいのは、キャラクターがすごく魅力的に描かれてるせいだろう。行天の変人ぶりやそれに引っ張り回される多田のお人好しぶりはもちろんのこと、自称”コロンビア人”娼婦のルルや、生意気小学生の由良、街の裏を仕切ってるらしい星…などなど脇役に至るまで、きちんとつくりこまれてる。


これまでの三浦作品って、『格闘する者に○』た『ロマンス小説の七日間』のようなコメディタッチの作品に、『私が語りはじめた彼は』のようなしっとりした作品、加えて、SFチックなやつとかホラーチックなやつとかやおいチックなやつとかあって、毎回作品から受けるイメージがバラバラだった。
だからこの作品は、テンポよい文章と、しっとりしたストーリー展開、という三浦しをんのいいところが、過去最高にいいかんじでミックスされた作品だと思うのだ。これからもこんな作品を期待してます。