オタク女子研究 腐女子思想大系(杉浦由美子/原書房)★★★★★

オタク女子研究 腐女子思想大系
腐女子」を中心にオタク女子の世界をわかりやすく、かつ鋭い意見でまとめた一冊。こういう本が出てくるのもわかるなぁ。オタク男子の話は出尽くした感あるし秋葉原もパブリックなイメージになっちゃったしメイド喫茶も氾濫してるし。…というわけで次に来るのは腐女子と池袋。


腐女子」っていうのは、やおいとかボーイズラブをこよなく愛する女の子たちのこと。世界のすべてを「受け」と「攻め」で妄想しちゃう自分たちを「腐ってるよねぇ」と揶揄するように自然発生的に出てきた言葉らしい。
書店におけるボーイズラブコーナーは思ったより広い。そんだけ買ってる人がいるってことだ。それが以前から不思議でしょうがなかった。なぜに男×男? 最初は恋愛をしたことがない女の子とかが憧れる世界なのかと思ったりもした。でもそれにしちゃ市場がデカイ。気になったのでボーイズラブの小説と漫画をそれぞれ一冊ずつ読んでみたけど、余計にわからなくなった。だって普通に氾濫してる少女漫画やティーンズ向け恋愛小説の主人公を可愛い男の子にしただけなんだもん。なんで男にする必要があんの? …謎ばかりが残る…。
読み手である女の子たちはいったいどういうポイントにハマっているのか。完全に理解するにはいたらないけど、この本を読んで長年の謎にちょっとだけとっかかりが出来た気がする。


この本によれば、現在のボーイズラブの主要な読者は三十歳前後、しかもフツーに彼氏や旦那がいる女性が多いとのこと。なおさら、なぜ?ですよね。根源にあるのは「妄想」の持つ中毒性にありそうです。このBL妄想にハマりだすと、同僚と上司を使って勝手に脳内BLストーリーが出来ちゃうわけで、それが進むと小沢一郎は総「受け」だとか時事ネタも妄想ターゲットになり、果てはデパートの高島屋は「攻め」だとか人間以外のものにまで広がっちゃって…という脳内妄想パラダイスになっちゃう。何だろう、いったん受け入れてしまえばズブズブと沈んで二度と抜け出すことが出来ない快楽がそこにあるような気が、確かにする。
そして一方で、BLという世界では読み手である自分がまったく「感情移入」できない、というのもメリットらしい。要はハーレクイン小説と同じで(こっちの市場も意外に大きいはずだ)、設定がかけ離れてるからこそ物語の世界を引きずることなく、ストレス発散にちょうどいいと。それはわからなくもないけど、じゃあハーレクインでいいじゃんってことになりません? そりゃハーレクインは男×女で、BLは男×男だから、余計に感情移入できないだろうけど。ていうかハーレクインの読者はかなり感情移入してると思うんだよね。設定がかけ離れてるからこそ、自分自身を忘れて主人公に成り代わってる気がする。ま、要は現実味がないってところでしょうか。
つまり、脳内妄想の中毒性がBL読者の根源であって、感情移入できるか否かはあまり関係がないのではないかと。だってBL読者が感情移入してないとは思えないもの。セックス関連の部分に関しては入れないだろうけど、それ以外の恋愛パートはむしろ読者が感情移入しやすいように作られてるとしか思えないもの。


この本のメインである「腐女子」に関する様々な考察も興味深かったけど、個人的に面白かったのはラストに書かれた「恋愛至上主義の崩壊」(別にそんなタイトルの章があるわけじゃないですけど)。
恋愛至上主義の女は、古い言葉で言えば「三高」みたいなのを狙ってるから男に対してのハードルが高く、結果男が出来ない。一方腐女子含むオタク女は現実の男に対して多くを求めないので男が出来やすい、と。ま、それも一方的な見方ではありますが、ある意味核心を突いてる。男自身やそれに付随するものを自分の中の最上級に置いてる女より、ライフワーク的な趣味を持った女のほうが、大多数の男にとっては楽だろう。
さらに恋愛至上主義を「ヤンキー」であるとして上で、綿谷りさを「オタク系」、金原ひとみを「ヤンキー系」としたのは、非常にわかりやすくて鋭い。


もうひとつ興味深いのが「文化系女子」の存在です。この本では「腐女子」に比べて「文化系女子」は男性へのアピール度が高いとされてます。まぁ、インテリ男にしてはツボでしょうが、でもそれでも自分が言い負かせるほどの知識を持った女ってことで、それは昔から変わらないもの。ちょっと引用。

文化系女子は、男性に「どんな作家が好きなの?」と言われた時に「町田康とか中原昌也とか」と答えるでしょう。決して、江國香織とは言わない。(中略)「女の子でも中原昌也とか読むんだ。僕も大好き。ねぇ、どの作品が好き?」という風に会話が続いていくのでしょうか。

続きません!
たとえ5対5の合コンだとして、町田康中原昌也を知ってる男は一人いるかいないか…。しかも、いない確率のほうが高い。さらに下手な作品挙げようもんなら「こいつ馬鹿じゃねぇの?」と内心見くびっちゃうだろうし。


でもね、コレを読むと、自分もただの小説オタクだなぁ、と認識させられる。だって一緒だもん。現実の恋愛に対してそんなに欲がないところとか、現に趣味に暴走していても放っておいてくれる優しい相手を選んじゃうあたりさ。


まったく関係ないんだけど、この本を読んだ夜、TVで「すっぴんジャパ〜ン! 」という番組で、新たなオタクの整地として池袋の「乙女ロード」とかが紹介されてて面白かった。濃いよ。だってアニメの「NARUTO」のサスケ役の声優さんに群がってサスケ声で「おまえら、ウザイよ」(原作にも近い言葉がある)と言われて「ゥキャ〜〜!!!」って大騒ぎだもんね。多分やらせじゃないだろうな…と思ってしまうほどの勢いでしたわ。



とにもかくにも「なぜBLなのか?」という問題は未解決。今後もきっかけがあれば触れていきたいネタです。