包帯クラブ The Bandage Club (ちくまプリマー新書)(天童荒太/ちくまプリマー新書)★

包帯クラブ The Bandage Club (ちくまプリマー新書)
あんまり作品数は多くないのに、『家族狩り』『永遠の仔』というベストセラーの影響でしょうか。書店ではかなりスペースとって売ってましたね。


とある少年との出会いによって、心の痛みを和らげる方法を得た女子高生・ワラ。それは嫌な想い出のある場所に包帯を巻くことだった。これに癒された仲間たちとともに<包帯クラブ>としてHPを立ち上げ、様々な人が傷を負った場所に包帯を巻きにいく……。


すっごいマイナーな邦画みたい。実際に映像化してみたら、<マイナーな邦画>という枠は突き破らないにしてもそこそこいい出来な映画になるような気がする。学校の門に包帯を巻き付けるシーンなんて、ほんと映像向きだもの。


ただひとつの小説としてみると、かなり平坦な印象。包帯うんぬんのエピソードはなかなかいいと思うけど、主軸である主人公たちの成長という部分に関してはあいまいだ。あと全体を通してやたらと重苦しい。重苦しい話じゃ全然ないと思うんだけど。


そしてやっぱ技巧的な部分が気になる。設定は現代なのに、会話もメール上のやりとりも、まるで手紙のやり取りのような言葉遣いで。そりゃね、コミュニケーションツールが変わったとしても人の本質は変わらない、という気持ちはわかる。でもそこの細かいリアリティーを突き詰めていかないと、時代が反映される人間同士の距離感を描くことが出来ないんじゃないかな。


どうしても突っ込みたいところ。行為後にソーダで洗い流せば妊娠しない、という風説を信じてる21世紀の高校生なんて絶対いませんから! ていうか20世紀かなり後半の田舎の高校生だったわたしですら、ちゃんとした知識もってたし! 恥ずかしいほどにずれすぎ。編集者はこういうところにチェックは入れないもんなの?
そしてもうひとつだけ突っ込ませて! 主人公たちのグループが好んで各地の方言を使ってるのが、ちょっとうっとおしいし、読みづらい。ちょっと前の方言ブームを取り入れたのがバレバレでしょう。


でね、この小説のなかでは、そういう方言をネット仲間から採取したとしてるわけ。そんだけネットで情報を仕入れることができるとしたら、妊娠うんぬんの風説はあきらかにおかしいでしょう? 素人読者にも看破される知識のなさを下手に披露するくらいなら、時代設定を変えれば良かったのに。
この人は方向転換しなければダメだと思う。過去の遺産はもう通じないですよ。