ひなた(吉田修一/光文社)★★★★

ひなた
初期の作品は読んでたものの、最近ご無沙汰だった吉田修一の新刊。久々に読んで思ったけど、やっぱ上手いねこの人。

素人劇団が唯一の趣味である信用金庫職員の浩一、ファッション雑誌の編集として毎日多忙な日々を送る浩一の妻・桂子、浩一の弟で将来に迷う大学生・尚純、尚純の恋人で某有名アパレルの広報の職に採用されて毎日がてんやわんやのレイ。この4人を視点に見え隠れするそれぞれの人間関係が繊細に描かれる。

それぞれの距離の取り方がひどく現代的だと思う。それぞれのパートナーや家族、友人に対して、そして自分自身に対してもこの4人はとても誠実だ。誠実だけど、言わなくていいことは言わない。そしてその「言わなくていいこと」にそれぞれの陰がある。

誰かを傷つけるようなことにならない限り、むしろ今の関係を保ちたいがために、相手の「陰」に踏み込まないし、自分の「陰」も捨てない。それがすべて大事な人のためだと言い切ってしまえば図々しい言い訳に聞こえなくもないが、半分は自分自身のためだというところが何より、共感できる。

傷つきたくない、というより、傷つけたくない。そして自分に嘘をつきたくない。そんなよく似た4人の人生が、細い糸で丁寧に絡めとられたような小説だった。とても良かったです。