雪屋のロッスさん (ダ・ヴィンチブックス)(いしいしんじ/メディアファクトリー)★★★★

雪屋のロッスさん (ダ・ヴィンチブックス)
いしいしんじの最新短編集です。
30編にわたるそれぞれのタイトルをいくつか紹介しましょうか。
・なぞタクシーのヤリ・ヘンムレンさん
・棺桶セールスマンのスミッツ氏
風呂屋島田夫妻
・ボクシング選手のフェリペ・マグヌス
・似顔絵描きのローばあさん
・ポリバケツの青木青兵
・サラリーマンの斉藤さん
・雨乞いの「かぎ」
・取立屋の山田
・玩具作りのノルデ爺さん
などなど…。

たんなるお仕事小説ではない。それぞれの「営み」がそれぞれの「人生」だ。優しくも時には残酷なまでに切ない童話チックないしいしんじの世界を通して、たくさんの素敵な人生を味わうことが出来る。

鳥顔と猫顔の警察官コンビに笑い、最高のエンターテイナーとしてリングにすべてを置いてきたボクシング選手に拍手、棺桶セールスマンの身に起きた予想外の悲しい出来事に切なくなり、ラストに変身を遂げた犬散歩人にニヤリとし、浜辺のゴミからつくりあげた玩具を海に流すその理由に泣きそうになり、立派な街道人生にまた拍手。

いしいしんじの作品って読むタイミングを見計らわなくてはなくて、とくに長編ならゆったりできる夜じゃないと読みたくないんだけど、この短編集は例外。この一週間は実は睡眠時間削るほど殺伐とした忙しい時間だったのだけど、息抜きにちょこちょこ読むのにぴったりだった。それぞれが短いこともあるけど(短いものは2ページくらい)、「がんばろう」という気になれる。前の短編集『白の鳥と黒の鳥』は眠る前に少しずつ読むのがいいだろうと思ったけど、この作品なら勉強や仕事で忙しい時こそ読むのにふさわしい。とても良かったです。