金春屋ゴメス(西條奈加/新潮社)★★★★

金春屋ゴメス
第17回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。ファンタジー大賞ではあるとはいえ、設定はSFで舞台は江戸、人情味あふれる青春モノで、かつわりとまっとうなミステリ……? というなんだかエンタメ性の高い一冊であります。
近未来の日本、なぜか<江戸>が独立を宣言し鎖国するー。国際的には日本の領土でありながらも、鎖国をつらぬく<江戸>に対して日本政府はなぜか及び腰。<江戸>とは生活習慣から法律まですべて、江戸時代を完璧に復活させた国だが、鎖国していることもあって、日本人にしても<近くて遠い国>なのだ。そのため日本から<江戸>へ入国するのも希望者からの抽選で、その倍率はなんと300倍! その難関をあっけなく一度の申し込みで通ってしまったのが、本編の主人公である大学生の辰次郎なのだ。
竹芝埠頭から船に揺られて江戸に着いた辰次郎の身請け先は、なぜか長崎奉行。しかも親分は大盗賊も思わずびびる極悪非道な「金春屋ゴメス」だった…。初日からゴメスにぶっ飛ばされあぜんとする辰次郎だったが、そのゴメスから意外な指令を受ける。それは江戸に出現した致死率100%の疫病「鬼赤痢」についてだった。それはなぜか辰次郎の子供の頃の記憶がカギとなっているらしいのだが…!?
舞台が素晴らしいと思う。「いきなりタイムスリップして江戸時代に行っちゃいましたー」ではお話にならないが、この作品の舞台である<江戸>は過去の過去時代を完璧にコピーした、かつ近未来と同居している、不思議な場所なのだ。どこを見渡しても江戸時代なのに、その海をちょっと渡ればそこは高層ビルひしめくトーキョーが存在するという、時空がねじ曲がったような舞台設定が楽しい。
そして特筆すべきはキャラクター造形。辰次郎とともに日本から江戸へやってきた時代劇オタク・松吉や海外旅行マニア・奈美はもちろん、愉快で気持ちのいい金春屋の仲間たち……そこらへんの味わい深いキャラたちを一気にかすませるほどのインパクトを持つのが、ゴメス。主人公でもないのに小説のタイトルとなるのもうなずけます。昔からの子分にまで「厚顔無恥、冷酷無比、極悪非道で誉れ高い」とか「人間かどうかぎりぎりのところにいる」と評されるゴメス。しかもそれが●●●とは…。
ストーリーも上手い。<江戸>という舞台を上手く生かしているし。読んでて楽しかったです。
さてこれがデビュー作ですが、これをシリーズ化してくれると嬉しいかも。だって濃いよゴメスは。一作では語りきれないよ。続編書いてくれたらぜひ読んでみたいです。


著者を検索してみたらこんな記事が出てきました。
http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20050802bk04.htm
わりと近くに住んでそうだ…。