この町の誰かが (創元推理文庫)(ヒラリー・ウォー/法村里絵・訳/創元推理文庫)

この町の誰かが (創元推理文庫)
「愚か者の祈り」が面白かったので、続いて手を伸ばしてみる。
「『ユージニア』の構想のきっかけになったのは、この作品です。」と恩田陸が帯にコメントを寄せている。…でも構想のきっかけというよりは、この作品へのオマージュのように思えるな。「この街の誰かが」を恩田流に描いたものが「ユージニア」ってかんじ。
この作品はほぼ全編インタビューによって構成されたミステリである。恩田陸は「ユージニア」はもちろんその前作「Q&A」でも使用した手法ですね。この手法は面白いよね。人は主観によって無意識に事実をねじまげてしまう。だからインタビューによってのみ構成された物語は、その主軸がひどくぶれてて、読み手を不安にさせる。

クロックフォードーーどこにでもありそうな平和で平凡な町。だが、ひとりの少女が殺されたとき、この町の知らざる素顔があらわになる。怒りと悲しみ、疑惑と中傷に焦燥する捜査班。だが、局面を一転させる手がかりはすでに目の前に……!

差別もなく凶悪な犯罪者もいない、平和で温厚な町。だったはずだった。だが事件が起きてから、町は理性を失いはじめる。犯人が捕まらないことによるイライラや恐怖によって、町全体が軽いパニックに陥ってしまう。その過程を丹念に描く手法としてインタビュー形式を使ったヒラリー・ウォーは、ホント天才だ。一人か二人の目線で描かれていたら、こんなに臨場感は出ないだろう。読み始めたときから不安ばかり高まってページをめくる手が止まらない。そしてやっとホッとできるのは読み終えたときなのだ。
すごいねーこの人は。「愚か者〜」よりこっちの方が好みだったな。他の作品もどんどん読んで行きたい。
しかし全く同じ手法を用いた二つの作品を比べてみると、やり玉に挙がることの多い恩田陸作品の宙に浮いたオチっていうのは、彼女の最大の持ち味でもあるのだなぁ、と思った。