11の物語 (ハヤカワ・ミステリ文庫)(パトリシア・ハイスミス/小倉多加志・訳/ハヤカワ文庫)

11の物語 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
この人の作品を読むのは初めて。「太陽がいっぱい」の原作者なんだね。そんなことも知らずに、<ハヤカワ名作セレクション>として新刊コーナーにあったのを見かけて、何となく気になって買ってきただけなんだけど。
それがびっくり! めちゃめちゃ面白い!! こんな面白い作家を今まで知らなかったなんて、人生を損してましたわ。でもこれから他の作品を読む楽しみができた。
本作はデビュー作「マドンナ」を含む、著者の原点とも言える短編集らしい。タイトル通り、11の短編が収められてる。
強烈なインパクトなのは、やっぱカタツムリ二編でしょう。この人、カタツムリが好きなのかな。二つともすっごい怖いんですけど。
ひとつめは、食用カタツムリの交尾の美しさに心惹かれた男がひたすらカタツムリを観察する「かたつむり観察者」。当然交尾したカタツムリは子を産みます。そしてそこからはもう止められない勢いでカタツムリは増殖し続けて部屋中にカタツムリがびっしり…ひぇ〜。ずっと昔に見たミミズが家中を埋め尽くすホラー映画を思い出してしまった。
もうひとつは巨大カタツムリの存在を確認するため、無人島へ向かった学者の物語「クレイヴァリング教授の新発見」。上陸早々そのカタツムリを教授は発見するんだけど、あなた、殻の高さが15フィートですよ? しかし15フィートというのがどのくらいなのかよくわからなくて検索してみたら、約4.5mであることが判明して死にたくなった。
もうこの二つは生理的な気持ち悪さも手伝って、抜群に怖い。さらにカバーの写真が追い打ちを…うぅ…。
でもご心配なく。カタツムリものはその二編だけですから。他の作品はこの二つほど怖いわけではないけど、すごく上手い。愛情を求めるそのひたむきさゆえに一線を越えてしまった人間たちの姿が、ひねりの効いたストーリーで描き出される。解説の中でハイスミスへの賛辞として「最も完全な作家、小説と推理物語の統合を行って成功した人は、パトリシア・ハイスミスという女性である」という言葉が引用されているが、全くそのとおり。ミステリやサスペンスとしてもめちゃめちゃ面白いのに、文学してるんだよねぇ。
とにもかくにも素晴らしいです。他の作品も早く読んでみたい。