グレアム・ヤング 毒殺日記(アンソニー・ホールデン/飛鳥新社)

グレアム・ヤング 毒殺日記
超〜怖いんですけど!
少し前に、自分の母親に毒をもって殺しかけ、しかもその母親が弱っていく状況をブログで公開していた女子高校生の事件がありましたね。その女子高生が傾倒していたというのが、イギリスの<毒殺鬼>グレアム・ヤング。本書はそのグレアム・ヤングの生涯を描いた、恐ろしいノンフィクションである。もうね、下手なサスペンス小説より怖いんだ、これが。
13歳にして毒薬に関する知識をマスター、14歳で継母を毒殺、唯一の友達や実の父親や姉にも毒をもり続けた。タリウムという、当時あまり知られていなかった毒薬を使用することで、継母殺害に関しては何の起訴もされることはなかったが、少年のあまりの異常性に気付いた大人たちによって警察に通報され、父親への殺人未遂の容疑で逮捕される。当初は否認していたがやはて罪を認め、精神障害を伴う犯罪者が収容される施設で15年間服役することとなる。一刻も早く施設から出るため、模範囚を演じるヤング。そして予定通り釈放された彼は、職業訓練所でも優秀な成績を出し、小さな会社の倉庫係として就職する。そしてその社員たちが飲むお茶に毒物を混入した。結果、二人死亡、三人が重傷…。
何が怖いって、このグレアム・ヤングという人間の思考回路が全くといってわからないことだ。毒殺しようとする相手を好き嫌いで選んでるんじゃない。ただ自分に近い人なら誰でも毒をもっていたのだ。憎くて殺したい、とか、自分の利益のため、とかの理由があって殺してるわけじゃないのが怖いんだよね。もしかしたら最初の事件でもある継母は殺したかったかもしれない。でもそれ以降は自分の感情と関係ないような気がする。釈放後は家族に毒をもっていないが、それは単にすぐバレるだからだろう。プラス、自身はユダヤ系であるのにヒトラーに傾倒したりしてるし。ふつうの人間が理解しようとするのが無謀なのかも。
だからこの作品の著者も、決してグレアム・ヤングの内面を深く掘り起こそうなんて無謀なことはしない。彼の人生における印象的なエピソードをひたすら、リアルに描く。だから怖いのよ。継母の葬儀のシーンなんて、鳥肌立っちゃったし。
さらに恐ろしいのは、冒頭で挙げた母親殺害未遂で逮捕された少女の手口が、恐ろしいほどグレアム・ヤングのコピーだってこと。実際の殺害方法から、それを手記として残し、かつ逮捕後の答弁といい…。この女子高生だって今は精神鑑定中だけど、たぶん警察病院とかに収容されるだろう。たぶん彼女はおとなしくしてるだろう。そして数年後には出所するだろう。そして…たぶん同じことが繰り返される可能性は高い。
どうしようもないことなのかもしれない。法律は性善説に乗っ取ってつくられてる。ちゃんと更生する犯罪者だっている。でも「更生した」フリを余裕で出来る狡猾な犯罪者もいるのだ。この著者はそういうところに警告を鳴らしたいのだと思う。でもやっぱそれは難しい問題だ。
ま、そこらへんも含めて、ホント面白くて怖かったです。そして本の冒頭には関係者の写真が入ってるんだけど、グレアム・ヤングポートレート、これがまたすごいインパクトあるんだよね。これ表紙に使えば良かったのに。冷たくて神経質そうだけど、そこそこ二枚目。片目だけ光ってるのがなんとも恐ろしい、証明写真用ボックスで撮ったとは思えない、ある意味グッジョブな写真なのだ。
ちなみにこれは1997年初版。それで2版が今月の8日。話題性でしょうか、いつも行く本屋でもワゴンに積んであったし。本屋では事件と関係するようなPOPはなかったけど、少し前に「社会派くんが行く!』というサイトで逮捕された女子高生がこの本を愛読していたということを知ってたのでつい買っちゃったんだけど、意外な拾いモノでした。しかしこうなったら逮捕された女子高生に関するノンフィクションも誰か手をつけるべきでしょう。まだ彼女がグレアム・ヤングに傾倒しているならば(一生そうだと思うけど)、自分の事件を宣伝してくれるマスコミには口が軽いはずだから…はい、不謹慎ですね。