つるつるの壷(町田康/講談社文庫)<25>

つるつるの壺 (講談社文庫)
へらへらぼっちゃん」に続くエッセイ第二弾。
パンクについてもしくは自分の几帳面さについてもしくは貧乏と金持ちの違いについていろいろ考えてたりしてると、デビュー作の「くっすん大黒」が二つの賞を受賞、でもやっぱりTVで時代劇を見たり昼酒したりして猫に批判的な視線で見つめられ、ジャンジャン横町時代をふと思い出す…。少しぬるめのお風呂に浸かってるような気持ちよさですいすい読めて楽しいのだが、後半に収録された文庫の解説を集めたものがとくにいい。切れ目のないようなゆるやかな前半のエッセイとはテンポが変わるせいかもしれないが、短い枚数の中でテーマに沿って書かれた後半は、町田康の文章と言葉のセンスがぎらぎら光ってまぶしいくらい。解説される作品は知らないものばかりだったにもかかわらず、それぞれがひとつのエッセイとして楽しめちゃったからね。スバラシイです。


文庫解説ではないのだが、太宰の小説について書かれた『カレーの恥辱』という短いエッセイが個人的に興味深い。カレーを作ろうと思い立ち材料を買いにいくのはいいのだがカゴの中身によってレジの人に「こいつ今夜カレー作るんだな」と悟られるのが恥ずかしい、という話を男女入り交じる席で話してみたところ、男と女で全く反応が違ったというのだ。
<最終的な決を採ったところ、男はほぼ全員が、レジの人にカレーを作ると知られるのが恥ずかしい、といい、女は全員が、そんなのどうでもいい。そういう感情は理解できない、ということになり、つまりこの恥ずかしさは男の病である、という結論にいたって、それからこの話題は立ち消えになった>らしいのだが、一応女であるわたしにはショック………。
だってわたしも毎回カレーの材料を買うときに恥ずかしいと思っていたのだ! 
そして町田康をはじめとする男集団なんかより、女であるが故の深い事情があるのだよ。というのも、肉を別にするとカレーの材料といえばやっぱタマネギ・ニンジン・ジャガイモ。問題はこの3大野菜がカレーの材料として君臨するにとどまらず、あらゆる家庭料理のレシピへの参加率ベスト3でもあるという点だ。つまり基本的に家庭に常備されてるべき野菜なのである。もちろん切れれば買い足すわけだが、3種類とも同時に切れることは滅多にないだろう。つまりカレールウとともにこの3大野菜を買うわたしは、子供がいないことはもちろんのこと「普段料理はしないけど今日カレーを作る人」であることはレジのおばさんにとっては小銭の計算より明白な事実であり、料理が得意でないことまでバレてる可能性もあり、カレーの材料以外は一切何も買わないあたりが追い討ちをかけ……。
というわけでレジ係に主婦試験なるものがあれば顔パスであろうおばちゃんではなく、管理職的なおじさんだったり高校生のアルバイトだったりするとちょっとホっとするのである……そんなわたしが食い付いてしまった話題でした☆