凸凹デイズ(山本幸久/文芸春秋)<24>

凸凹デイズ
この人の作品読むのははじめて。前作の「はなうた日和」が評判よかったのは知ってるんだけど、なんとなく読まずじまいだったのだ。それにしても読み終わって改めて作者名を見て気付いたんだけど、男の人なんだね。いや字面は思いっきり男なんだけれども。装丁といい中身の雰囲気といい、なんとなく女の人のイメージだったもんで。
弱小デザイン事務所に所属する主人公・凪海が、つぶれかけの遊園地の新しいロゴとキャラクターデザインのコンペに向かうため、台風のなか必死に歩いてるシーンから物語ははじまる。そのコンペには凪海の勤める「凹組」と、美人社長が率いる旬なデザイン事務所「QQQ」が最終選考に残っていた。「凹組」は新人の凪海と、デザイナーとしての腕は確かだが変わり者のクロ、そして3人のまとめ役的な存在のオータキという3人だけの弱小デザイン事務所で、抱える仕事と言えばエロ雑誌のレイアウトやスーパーのチラシばかり。つまりこのコンペは、「凹組」にとっては大きな仕事なのである。ところが結局そのコンペでは、「凹組」のキャラと「QQQ」のロゴという組み合わせになることになってしまった。キャラデザインを担当した凪海は、「QQQ」の美人社長・ゴミヤから引き抜きの誘いを受けてとまどう。どうやらクロとオータキ、そしてゴミヤは古くからの知り合いのようなのだが…!?
出向というかたちで「QQQ」で働くことになった凪海は、ゴミヤと不思議な友情を築きはじめる。でも一方で「凹型」のことも気にかかり、さらに自分の将来にも頭を悩ませ…。
サイドストーリーとして、10年前のオータキ、クロ、ゴミヤの若き日が描かれる。同じ事務所でバイトしていた3人は独立して新しい事務所を立ち上げる。大きな夢を語りながら小さな仕事をこなす3人の毎日が、ある事件によって引き裂かれる。オータキ目線で描かれるこの物語は、クロの才能への嫉妬や、ゴミヤへの淡い恋心に彩られていて、とてもせつない。
タイトルや事務所の名前に「凸凹」を関連させたのは上手いなぁと思う。クロとオータキは図体ばかりでかいくせに「凹」なのだ。一方で「凸」だったゴミヤとは必然的に道を異にする運命だったのかもしれない。でも10年経っても昔の仲間を忘れることのできない3人を。新たな「凸」凪海が無理矢理結びつけてしまう。
登場人物たちに関わるエピソードが大きなものから小さなものまで、ホント上手く描かれてるんだよね。こうと決めたら一直線な凪海の失恋や、同じタイプのゴミヤのワンマンな仕事ぶり、なぜかいつも着流しでガリガリくん食べながらひたすら仕事こなしていくクロ……
ラストもとてもいいです。すべてにおいて上手くてちょっと驚きました。他の作品も読んでみよう。