シャングリ・ラ(池永永一/角川書店)<17>

シャングリ・ラ
未来の地球ー温暖化が加速したことにより国連は変動制の「炭素税」を導入、各国は一刻も早い森林化をすすめるしかない。そのなかでも東京はヒートアイランドにより熱帯化がすすみ、政府は都市の一部を放棄し森林化、あらたに都市機能を移す計画に着手した。移転先は山手線中心部に出現した、50年経っても未完成の巨大空中積層都市ーアトラス。しかしすべての都民がそのアトレスに移住できるわけではない。貧しいものたちは移住するあてもないまま、日々広がる森林に追われ過酷な環境に苦しみながら生きるしかなかった。
そんな未来の東京で、あるひとりの少女が少年院から出てきたところから物語は始まる。彼女の名前は國子、新大久保の居住地・ドゥオモを拠点とする反政府グループ<メタル・エイジ>のカリスマ的な若きリーダーだ。彼女の帰還を祝い、ドゥオモからは8本の煙突から大量の炭素を含んだ黒煙が上がっていた。
それを苦々しく見ていたのがアトラス第三層に住む少女。彼女の名は香凛、主に経済方面に卓越した才能を持ち、変動制の炭素税を利用した新システム<メデューサ>のための会社をたちあげたばかりだ。香凛の考案したシステムは画期的なもので、<メデューサ>によって莫大な利益がもたらされることは確実であった。にもかかわらず黒煙により気分を害された香凛は、國子について様々な政府情報をハッキングして調べ上げるのだが、驚くべき事実に直面する。民間人ならば最高でもBしか与えられないアトラス優先権において、國子はなんとトリプルAだったのだー
ひるがえって再び地上。時代錯誤な牛車がアトラスの陰に隠れるようにしてすすんでいた。そのなかにいるのは日本人形のような少女・三邦。普段アトラスからでることのない身分のものであるのだが、ある目的があって……
森に覆われた東京を舞台に、三人の少女がそれぞれの目的を持って走り出す、壮大なSF長編。


600ページ2段組みというなかなかの厚さではあるものの、こんなばりばり興味深い設定ではじまる物語が面白くないわけない。ほぼ一気読みでした。
難を言えば中盤からリズムが悪かったことだろうか。後半が長く感じるのは、盛り上げどころがあまり整理されてないからという気がする。それと後半にやたら出てくる、超人的な力と頭脳を持った涼子という悪役キャラがいるのだが、彼女が出てくるシーンだけ妙にコミカルであまりストーリーとマッチしていないように思えた。ていうか、このキャラ必要か?
と、読み終わればいろいろ文句が出てくるものの、集中して読み終わらすことができたのも、設定の面白さとスリリングなストーリー展開があればこそだろう。楽しかったです。