退廃姉妹(島田雅彦/文芸春秋)

退廃姉妹
島田雅彦ってこれまであまり手に取る機会がなかったな。『優しいサヨクのための〜』はたしか文庫で何年か前に読んだんだけど。なのになぜこの最新刊を手に取ったかというと…この昭和初期っぽい装丁があまりに素敵だったせいかな。あぁ…イメージが出ない。「これからは私たちがアメリカ人の心を占領するのです。」というキャッチコピーにもかなり惹かれた。

進駐軍の兵士たちに身を投げ出す行動的な妹。
特攻帰りの男のすべてを受け入れる理知的な姉。
過酷な戦後を生きる美しき姉妹の愛と運命は?
戦後60年の日本人に島田雅彦が贈る大型ロマン!

終戦とともに逮捕された父親に代わって家を守ろうと決意した姉妹だったが、頼れる人もなく借金は山積み…。もちろん家計を支える意味もあったが、それ以上に<自由>に憧れる奔放な妹・久美子は自ら進んで春を売る仕事を選ぶ。一方姉の有希子は、心を病んだ特攻帰りの男と運命を共にすることに。
過酷な戦後の東京を生き抜くこの登場人物たちは、みんな泳ぐことから逃れられないマグロのよう。一度立ち止まってしまえば、二度とそこから動くことができない。だから毎日何も考えずにひたすら走り続ける。人間の本能だろうなと思う。恐怖や不安から逃れるためには、走り続けるしかないと身体が知ってるのだ。だからこの物語はどこかドライだ。苦しさも哀しさもそれに浸ろうとしなければ、それは人生のただのひとコマに過ぎない。
「戦後を生き抜く女」という題材ではいくらでもドロドロになりそうだけど、事実様々なことが降り掛かる姉妹の波瀾の半生が、意外にもあっさりとした語り口で描かれる。それがすごくいい。軽快に一気読みしてしまった。やっぱ文章がすごく上手いせいだろうな。トラッドでクールでちょっと洒落好きな雰囲気。この人の他の作品も読みたい。