告白(町田康/中央公論新社)

告白
最新作『浄土』に続いて二作目の町田康作品。

人はなぜ人を殺すのか
河内音頭のスタンダードナンバー<河内十人斬り>をモチーフに、町田康が永遠のテーマに迫る渾身の長編小説!

<河内十人斬り>とは…

明治二十六年五月二十五日深夜、雨。河内国赤阪村字水分で百姓の長男として生まれ育った城戸熊太郎は、博打仲間の谷弥五郎とともに、同地の松永傳次郎宅などに乗り込み、傳次郎一家・親族らを次から次へと惨殺・射殺し、その数は十人にも及んだ。被害者の中には自分の妻ばかりか乳幼児も含まれていた。犯行後、熊太郎は金剛山に潜伏、自害した。犯行の動機は、傳次郎の長男には借金を踏み倒され、次男には妻を盗られた、その恨みを晴らすため、といわれている……。熊五郎、三十六歳の時であった。

謎の猟奇事件に真っ向から挑んだ長編小説。結構長いので読む前は構えていたが、一気読みしちゃったほどの面白さ。子供の頃から運命の事件の日までを熊太郎の視点から描かれたものだが、語り口が面白くてくすくす笑いながらどんどん読める。「本の雑誌」で豊崎由美が指摘していたが、熊五郎が(一日だけ)心を入れ替えて早朝から野良仕事をはじめるあたりなんて爆笑もんです。
この熊太郎というのが<頭のいい馬鹿>で、人がひとつ考える間に百くらい考えている。村では乱暴者と目されてるが、「頭で考える前に手が出るタイプ」ではなくて、考えすぎて訳の分からない行動に出て気味悪がられているのである。でも憎めない。根は正直でいいやつなのだ。
その熊五郎を絶望の縁に追い込んでいくラストは読んでいて胸が痛くなった。何が彼を狂気へ走らせたのかということは時代を問わない不変的な問題だ。
それにしても上手くてびっくりしたなぁ。今後の作品にも期待大です。