Book(26)

笑酔亭梅寿謎解噺
笑酔亭梅寿謎解噺田中啓文集英社
この人の作品を読むのははじめて。ミステリ新刊のでかい平台の上でこの本だけあと一冊しかなくて低かったのが悪目立ちで、なんとなく手にとって購入。
高校を中退し警察にやっかいになること数回の典型的な不良・竜二が、なぜか元担任に連れられ上方落語家の笑酔亭梅寿のもとを訪れるシーンから物語がはじまる。竜二の元担任・吉太郎は実は教師になる前は梅寿の弟子として落語を学んだ経験があり、この問題児を引き取ってもらおうと梅寿のもとにやって来たのだ。梅寿はもと弟子に対し怒鳴り散らすわどつくわでひどい剣幕。その雰囲気に飲まれ、なぜか竜二はまったく知らない落語の世界に足を踏み入れることになるのだが…。
ふしぎなことにこの本、かたちとしては本格ミステリの連作短編集なのである。そして作品全体を通しては竜二の青春と成長が丁寧に描かれる。う〜ん、面白いし上手い。キャラクターがいいんだよね。落語家に弟子入りしながらも金髪トサカ頭をやめない竜二もなかなかだが、やたら自己中で飲んだくれで借金まみれの師匠・梅寿、むかしは万引きした竜二を日本橋から梅田まで走って追いかけて捕まえた警察官でもあり梅寿の息子でもある二郎、あからさまにイヤミな兄弟子・梅雨、ソープ嬢から転身した姉弟子・梅春、新しい笑いを追求するピン芸人・チカコ…などアクの強い脇役たちが物語を引き立てる。他の作品も読んでみたいなぁ。
落語界をバックグラウンドにした小説ってけっこう好きなのが多い。佐藤多佳子しゃべれどもしゃべれども』とか竹内真『粗忽拳銃』とか。実際落語を観に行ったのは一度しかないけど。あ、小説じゃないけど『タイガー&ドラゴン』も…。