Book(27)

白蛇教異端審問
白蛇教異端審問桐野夏生文芸春秋
なんと著者初めてのエッセイ集。短いエッセイや、直木賞エドガー・アラン・ポー賞候補になったあたりの日記、ショート・ストーリーなど。しかしなんといっても一番面白いのは表題の「白蛇教異端審問」だろう。これは「新潮45」の紙面において「柔らかな頬」を酷評した匿名の評者と、匿名にすることに意義があるとして譲らない新潮社に対する反論から始まる。「小説すばる」に掲載されたこのエッセイは見事に無視されただけでなく、同業者や編集者などからも冷たい反応しか返ってこない。「そんなもの無視しておけばいい。作品で勝負したらいい」という周りの意見にも納得ができない。だけどそれは所詮他人だから言えることだ、傷を受けたのは私なのだから、と。暗黙のタブーである作家から評論者への反論を孤立無援で行う姿は格好いい。言いたいことはがんがん言っちゃってくれ。この論争があったのがすでに5年前だ。今でも同じセリフが吐けるかどうか匿名の論者に聞いてみたいところである。