一応今年も終わりで今日から実家に帰ってしまうので、とりあえず今年(発行の)面白かった本を…。ちなみにそれぞれの感想は読んだときにはてなに書いたもののコピペ。

犬は勘定に入れません…あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎
1.◆犬は勘定に入れません…あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎コニー・ウィリス早川書房
本作は『ドゥームズデイ・ブック』の続編にあたるが、設定と登場人物の一部が重複してるだけなので、どっちを先に読んでもいい。とはいえSF初心者であるわたしはやっぱり『ドゥームズデイ・ブック』を先に読んでて正解だった。『犬は〜』のほうがSF度が高いし、冒頭はちょっと意味不明なかんじだからこれを先に読んでたら引き込まれなかったかも。『ドゥームズ〜』が恐ろしく哀しい物語であったのに対して、『犬は〜』のほうは正反対!ユーモアありラブストーリーありドタバタ劇ありの楽し〜い小説だ。両方に共通するのは、これだけ長くてもその長さがちっとも気にならないこと。
細部を上げ出すときりがないくらい面白いのだけど、個人的に一番好きなのは「C」の恋だろうか。素敵…。それに犬と猫が可愛いこと!あと『ドゥームズ〜』ではちょっと頼りなかったフィンチが、本書ではすごーく頼れる男に成長してたことが不思議。ダンワージー先生にこき使われてたのだろうか…。
ちなみに翻訳もいい。すっごく読みやすいし、平面的じゃない。<プチ悲鳴>は笑えるけど。訳者あとがきによると、ウィリスが執筆中の最新作は、。『ドゥームズ〜』『犬は〜』に続くオックスフォード大学史学部シリーズの第三弾になるらしい。楽しみ〜。


夜のピクニック
2.◆夜のピクニック恩田陸/新潮社)
この作品を買ったのは『本の雑誌』で北上次郎が今年のベスト3に入ると太鼓判を押してたから間違いないだろうと思って買ったんだけど。思い返せばこの人の作品で読んだことがあるのは『ねじの回転』だけだ。たしか二・二六事件を題材にしたSFチックな話だったと記憶してるが、面白かったにもかかわらずその後この人の作品を追いかけてなかった。後悔、無念、上手いじゃんこの人!!
80キロを歩きとおすという「歩行祭」―恒例となった学校行事。クラスメイトの貴子と融のそれぞれの視点から描かれた最後の高校行事。融に対してわだかわりを持ったまま高校生活を終えたくないと、心の中である賭けに出た貴子だが―。
この作品で描かれるのはただひたすら「歩行祭」である。ただひたすら歩き続ける。リアルな疲労と他愛もないクラスメイトとの会話が続く。なのになんでこんなにも面白いんだろう!!
スティーブン・キングの『トム・ゴードンに恋した少女』が頭に浮かぶ。少女がただ森に迷い込んだだけの話だった。登場人物も物語全体の95%で、その少女だけだった。なのにどうしてこんなに面白いの!?下手したらいやみともとれる天才ストーリーテイラーの実力を見せ付けた作品だと思った。事件なんて起こらなくても、いろんな人が関わってこなくても、読者を引き込む作品はつくれるんだよ、と言われてる気がした。
この作品からも同じものを感じてしまったのだ。ストーリーテイラーとしての才能。高校最後の行事に「しょうがねえな」と思いつつやり遂げようとする仲間、それぞれの恋愛事情、貴子と融の微妙な緊張関係、アメリカに移住した友人の影。ただひたすら歩く二人の主人公に絡んでくるこれらの雰囲気に、めちゃくちゃ惹きつけられる。上手いね、この人。



魔術師 (イリュージョニスト)
3.◆魔術師 (イリュージョニスト)ジェフリー・ディーバー文芸春秋
今回の敵は魔術師。緻密な犯罪者に手品師のような技術を組み合わせたらどうなるか…。一分以内に変装やピッキングができる犯罪者。これはある意味で最強の最高の犯罪者ではないか。これが映像であったなら『ミッション・インポッシブル』のようにCGに頼った安易な変装にしてしまうだろうが、小説だからこそリアリティを追求し、現実でもその奇跡を起こすことができる人間―魔術師が選ばれた。
リンカーン・ライム>シリーズの中でも最高に演出性が高く、スピード感に満ちた作品であることは間違いないだろう。相手に追いつこうとして追い越され、捕まえたと思ってもするりと逃げてしまう―。ジェフリー・ディーバーは最強の<犯人>を生み出してしまったのではないかと思う。もちろんこの作品は文句なしに(というより過去最高に)面白いのだが、今後苦しむのではないかと勝手に想像してしまう。でもこのシリーズは続けて欲しいな、何としても。『悪魔の涙』のキンケイドがゲスト出演しているのもファンとしては楽しい。



空の中
4.◆空の中有川浩メディアワークス
この本が入荷された日、店員が並べてるところを見た。しばらく前のことだ。それはかなりの冊数だった。気になったので並べ終わったところを見計らって見てみた。有川浩…知らないなぁ。だけど多分おもしろいんだろうな、という感じが漂ってた。売り手のやる気みたいなものが伝わってきたのだ。だけどSFだしなぁ、とためらってその日は買わなかった。
だけどこれを読み終わってびっくりしている。すごいすごい!予想以上に面白いじゃん。
帯には恩田陸の推薦文。「オトナの話なのに児童文学、SFでサイコ、しかも感動作。」そうなんだよね、SFなんだけどいろんな側面があって、それがいい。それにキャラクターづくりが秀越。とぼけた雰囲気とは裏腹に頭の切れる高巳、男勝りの口調と性格の女性パイロット・光稀の二人がとくに好き。二人の微妙な関係が、深刻な物語の中で清涼剤の役目を果たす。ラストもすごく良かった。
しかしこの作家って女の人だったのね…意外。しかもこの作品が二作目だっていうのも驚きだ。次作も期待。



対岸の彼女
5.◆対岸の彼女角田光代文藝春秋
わたしの中で、どんどん角田光代の評価は高まっている。この本はわたしが読んだ中で角田光代のベスト1に輝く小説だ。
専業主婦の小夜子は昔から変わらず人の和にうまく入っていけない性格で、また幼い娘・あかりがあまりに自分と似た損な性格であることに気付き、まずは自分を変えようと仕事を探し始める。姑に嫌みを言われつついくつか面接に落ちたあと、やっと決まった会社は<プラチナ・プラネット>という会社だった。旅行業務を主とするが、新しい事業として清掃業務を始めようと人材募集をしていた小さな会社だ。なんだお掃除おばさんか、と小馬鹿にする夫を尻目に、小夜子は清掃業務に自分なりのプロ意識を身につけていく。そしてまた偶然にも同い年で同じ大学の出身者である女社長・葵ともうまが合い、仕事への情熱は高まっていった。それと比例するかのように夫との関係がぎくしゃくし姑にも苦労する小夜子は、独身で奔放で行動力のある葵にあこがれ、友達としても仲がよくなっていくのだが−。
葵は高校時代いじめに遭って登校拒否になり、母親の地元へ引っ越した。新しい学校では地味なグループに属し、いじめの標的にならぬよう細心の注意を払う。だが一方でどこのグループにも属さないひょうひょうとしたクラスメイト・魚子と仲良くなり、学校の外では魚子とばかり過ごしていた。高二の夏、二人は夏休みを利用して離れた土地にある海辺のペンションに住み込みのバイトをするため地元を離れる。きつい仕事だったがペンションの家族とも仲良くなって楽しく過ごした夏が終わり、地元へ戻る電車がやって来たとき急に魚子の様子が変わった。「帰りたくない」−。
小夜子の今の物語と、葵の高校時代の物語が交差して描かれるのだが、これがもう、すっごくいいのだ。これまでの角田作品に比べても、ドラマ性が高く、構成もうまい。親子であれ友達であれ仕事関係であれ、その微妙な人間関係を丁寧に描くことができる、希有な作家だと思う。


5冊選ぶなら以上かな…。
そのほかではミステリなら
・雫井修介『犯人に告ぐ
東野圭吾さまよう刃
・リチャード・ノース・パターソン『ダーク・レディ』
・伊坂幸多郎『チルドレン』←ミステリかどうか微妙
エンターテイメント・純文学なら
舞城王太郎好き好き大好き超愛してる
角田光代『太陽と毒グモ』
打海文三『一九七二年のレイニー・ラブ』
とかでしょうか。




プラス今年発行されものではなくて今年読んだ本で良かったものは…。
・オーソン・スコット・カード『消えた少年たち』
森絵都『DIVE!!』
あさのあつこ『バッテリー』『No.6』
・コニーウィリス『ドゥームズデイ・ブック』『航路』
恩田陸『蛇行する川のほとり』
舞城王太郎『山ん中の獅見朋成雄』
とかかな。