村田エフェンディ滞土録(梨木香歩)

村田エフェンディ滞土録
これはだいぶん前に買ったんだけど、なかなか読み進められなかったもの。別に読み辛いってことじゃないんだけど。しかし途中からは一気に読んでしまった。
1900年初頭、留学生・ムラタのトルコでの生活を描いた作品。当時はかなり外国と日本では常識も違っているが、ムラタはいろんな驚きを胸に秘めつつ「ふーん、なるほど」と柔軟にすべてを受け入れているのが好感度が高い。それはムラタの住む下宿にいる人々にも伝わるらしく、ちょっと変わった下宿人たちも何かとムラタを誘い出すのだ。18にわかれたそれぞれのショートストーリーが途中まではさわやかな風のようにつむがれるが、ムラタの急な帰国が決まったあたりから少しずつ物語は速度を変えていく。ラストのディクソン夫人から日本のムラタにあてた手紙や鸚鵡によって、それまで描かれてきたトルコでの生活、友情が走馬灯のようにムラタと読者の胸の中に流れ出す。戦場で鸚鵡が叫んだ「It's enough!」。100年後の現在でも世界のどこかで誰かが叫んでるだろうこの言葉が胸を打つ。とても素敵な青春物語でした。